木挽に戻す、その日まで

オリエンタル納言日常日記

ワタシの旧姓は“木挽(こびき)”という珍しい苗字です。

そして同じ苗字の人と出会ったことがいまだにありません。

とても珍しくて、すぐに覚えてもらえる苗字だから子どもながらに誇りに持ち、大切にしてきました。

けれども変わっているということもあり、学生の頃からその苗字を馬鹿にされたり、からかわれたりすることも多くありました。

すごく悔しくて悲しい思いもたくさんしたけれど、それでも大切にし続けてきた特別な思いがある苗字でもあります。

珠洲の名残を

ワタシの父の出身は石川県の珠洲市です。

そして、この木挽という苗字も珠洲市の方に多く存在しています。

祖母の家の近くに木挽という名字の人たちが多く住んでいて、その中でも本家と分家があるような土地柄でもあります。

だから珠洲市に帰った時には、「木挽〇〇の娘です」というと、「あぁ、あそこの子か!」と言われることもよくあります。笑

震災後から珠洲市もあらゆる人に知ってもらうようになりましたが、昔は地名を言ったところで「どこそこ?」となるくらい、田舎の場所だっただけに、余計に旧姓は珍しかったのかもしれません。

母が住んでいるところと、珠洲に住んでいた父の二人の血を分けてワタシが存在していることもまた、自分の苗字に誇りを持っている理由でもありました。

本籍地を変えて

私たち夫婦は、初めは「結婚」という形を取ろうとは考えておらず、「事実婚」として苗字を変える予定も全くありませんでした。

けれども互いの両親のことも考えて、結果的に結婚することを選びました。苗字を変えることをずっと悩んではいましたが、彼の両親のことも考えた末に、苗字は彼のを、そして本籍地は珠洲市の方にしてもらうことにしました。

彼はワタシの苗字が珍しいこともあり「本当に苗字を変えてもいいの?」と何度も聞いてくれましたが、それでも本籍地を石川県にしてくれる配慮に応えるように、苗字を変える決断をしました。

地震によって変わりゆく気持ち

彼のお父さんには本当に良くしてもらっていて、彼の苗字である“西川”になったこともとても喜んでくれました。

だからワタシの名前を呼ぶときには、たまにフルネームで呼ぶこともあります。そして「嫁に来た」と言うのではなく「我が娘」と嬉しそうにフルネームで呼んでくれるのです。

けれども、2024年に起きた能登半島地震によってワタシの気持ちは大きく変化していきました。

この苗字は年々減りつつあり、ほとんどの人の高齢化が進んでいます。

一度は彼の姓になったけれど、震災直後から“木挽”に戻したいと思う気持ちが強くなっていきました。

あの場所を忘れないためにも、ずっと大切にしている苗字がなくならないためにも。

彼に想いを伝えて

そんなことを考えていることは、きっと彼にはお見通しだったのでしょう。

ある日突然、「納言ちゃんは、前の苗字に変えたいって思う?」と聞かれたことがありました。

「正直に言えば、戻したい気持ちはあるかな」

「そうだよね。震災もあったし、珍しい苗字だから余計にそう思うよね」

「でも、パパも西川になったことを喜んでくれてるから。時が来たら、いつかは戻そうかなって思ってるんだ」

「そっか。僕もそれがいいと思う。苗字が変わっても夫婦であることに変わりはないから」そう言ってくれたことをきっかけに、ワタシは旧姓に戻す決意を固めたのです。

いつの日か木挽に戻れるように

何度か苗字について彼と話し合い、自分でも結婚した後から苗字を変えられるかなどを調べてみましたが、そう簡単に「変えたいです!」と言って変えられるものではないので、きっと時間も年月もかかるとは思います。

けれども、ワタシの両親にも「いつか、木挽の姓に戻すつもりだよ」と話すと、「お前、本気か!?ましゅうはなんて言ってたんだ」と驚きながら聞かれましたが、二人の会話をそのまま話すと、「・・・あいつ本気か?すごいなぁ」とただただ驚きと、それでも少しだけ嬉しそうな顔を浮かべていました。

とても変なことかもしれませんが、ワタシにとってそれほどまでにこの苗字は大切なものであり、残し続けたいものでもあります。

あの震災以降、本当にあらゆることを考えて、考え尽くしてきました。

そして珠洲市に多い苗字だからこそ、もしもこの先、あの町すら見捨てられて、忘れ去られてしまうことになったとしたら・・・そんなことが頭をよぎるくらい、今もなおあの町は崩れたままであり、人もどんどんいなくなりつつあります。

だからこそ余計にこの苗字を残し続けていたい・・・そう思う気持ちが強くなっているのかもしれません。

苗字を戻すことは当分先の話ではありますが、いつの日かもう一度、旧姓を名乗る日がやってくると思います。

そうやってできることから忘れないように、忘れ去られないように、ワタシはワタシにできることを一つひとつ積み上げていきたいと思うのです。

コメント ナイーブな私に勇気をください

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