忘れもしない、あの体験・・・ 後編

オリエンタル納言日常日記

事故が起きてから、私の不信感はどんどん募っていきました。

警察を呼ぼうとしないところも、この状況で後どのくらい待てばいいのかも分からないまま、ただイタズラに時間は過ぎていきました。

興奮状態にいたからなのか、痛みを感じることはありませんでした。

助けてくれた保険会社の女性の方にお礼を言った後、私は両親に電話をして状況を説明しました。

しかし、興奮状態でも体は正直なもので、話すだけでも唇がガタガタと震えて、うまく話すことができずに、何度も「落ち着いて、落ち着いて」と言われるので、不安のあまり泣いてしまいそうなのをグッと堪えながら、一生懸命伝えました。

私が両親に電話している間に、友人も両親に電話をしていたので、「友だちのお母さんが迎えにきてくれるらしい」と伝えると、「何かあったらすぐに連絡しなさい」言われ、そのまま電話を切りました。

何時に迎えに行けるかは分からないけれど、友人のお母さんが迎えにきてくれることになりました。

待っている間、私たちの間に会話はほとんどありませんでした。

というよりも、何とか話しかけようとしたけれど、あまりのショックな出来事に、友人は何を話したらいいのか分からない様子でした。

夕陽が見える頃

少しずつ景色は変わり、明るかった場所も夕暮れに差し掛かり、綺麗なオレンジ色の風景が何もない場所を照らしているように見えました。

ただ、楽しく過ごしたかっただけなのに。

ただ、お洒落なカフェで美味しいご飯を食べたかっただけなのに。

そんなことを言っても仕方がないことは分かっている。けれども、起きてしまったことに私もどうしていいのかが分からず、ただただ沈んでいく夕陽を眺めることしかできませんでした。

もしも、私が事故を起こしてしまった当事者なら、きっと乗っていた友人に声をかけていいものか、どう謝ればいいのかも分からなくなっていたでしょう。

想像するだけで、何とも言えない気持ちになってしまう。

結局、少し声をかけて以降は、そっとしておくことにしました。

どうしようもできない現状に、目を背けるように・・・。

友人母の登場

一体どれくらいの時間が流れたのか、もうこの先誰も迎えに来てくれないのかと思った時、ようやく一台の車が私たちが待つ場所に停車しました。

すると「もぉ〜何やってるのよ。このバカ!」

「だってぇ〜。ぶつかっちゃったんだもん」

「ごめんね。なんかこんなことになって」

「・・・あっ。いや、大丈夫です」

「あ〜あ。車廃車だよ。んもぉ〜。本当に!」

みなさんお気づきでしょうか。このテンションの落差を・・・。

今まさに目の前には、事故を起こした娘と、助手席に乗っていた友人がいて、廃車になるであろう車が隣にポツンと置いてある。怪我の心配よりも何よりも、車の心配を先にされたことに、私の心はしっかりザワザワしていました。

友人のお母さんと一緒に、お兄さんも来ていたのですが、幸いにも車は運転できる状態だったので、ベコベコになった車をお兄さんが、私と友人は、お母さんの車に乗り込むことになりました。

しかし、ここからが私をさらなる地獄へと落としていくことになるのです。

不信感を募らせて

私たちを乗せた車は、一度コンビニに入りました。

そこで「本当にごめんね」と言われ、おにぎりを一つ買ってもらいました。

山道から駅まで時間もかかるため、その間、友人のお母さんは事故のことを色々聞いてきました。

親と会えてホッとしたのか、無言状態だった友人も事故の様子を時折笑いながら話をしていたのですが、それを聞いたお母さんは「本当にうちの子がごめんね〜」とまた笑いながら言っていました。

(いやいやいや、笑い事じゃないよ。むしろ危うかったからね。一歩間違えてたら車じゃなくて川を渡ってたよ?)と言いたい気持ちをグッと堪えて、「・・・はは〜。そうなんですよぉ」と言うことしかできない不甲斐なさにも腹が立ってくる。

しかし、せっかく迎えに来てもらっているし、友人のお母さんだし、色々思うことはあるけれど、気を遣いながら道中を過ごしていました。

すると唐突に「病院には行くの?」と聞かれたので、「はい。念のために行こうと思います」答えると「・・・ふぅ〜ん。でもさ、こんなに普通に話せてるんだから、行かなくても大丈夫じゃない?」と言われたのです。

脳内では(ハァァァァァ!?いやいやいや、事故はわざとじゃないから仕方ないとしよう。でも、『行かなくてもいいんじゃない?』は、そちらが言うことじゃないだろ!!!!!!絶対むち打ち確定だよ?明日体動かないよ?だってほら、舌噛んでんだから。かなりの衝撃だったよ?ねぇ!娘さん笑ってますけども、事故起こしてるんだから、そこはちゃんとしろや!!!)と、心の中で怒りが沸々と湧き上がってしまう。

あれだけ気を遣って慰めていたことに、激しく後悔した瞬間でした。

その後も何回か「病院行くの?」攻撃を繰り出されましたが、「行きます」と答え続けました。

結局何も解決しないまま、駅まで送ってもらい、その日は帰宅することになりました。

家に着いた瞬間に「納言、大丈夫か」と声をかけられ、経緯を話した後、私は早々に部屋に戻り、掻き乱された頭をクリアにするためにも、その日はすぐに寝ることにしました。

最悪の結末

次の日の朝、起きあがろうとした瞬間に激痛が走り、これは仕事どころじゃないと確信した私は、すぐさま園に電話をして病院に行くことにしました。

友人にも「やっぱり病院に行くね」とだけ連絡を入れました。

すると、「あのさ病院代なんだけど、納言の保険でとりあえず払っておいてくれない?金額が分かったら、お金だけ振り込むようにしたいんだけど」と言われ、もう我慢の限界を超え、友人としても一線を超えた彼女に電話をかけました。

「あのさ、どういうこと?」

「いや、お金払うからさ、納言の保険で払って欲しいんだよね」

「それは、なんで?」

「・・・・だって保険料が上がっちゃうから」

「いや、それはおかしくない?ごめん。それは筋が違うよ。だって事故起こした人がやるべきことじゃない?友だちだからって、それは出来ないよ」

「でも、お母さんがそうしろって・・・」

「お母さんにも言っておいて。『それは出来ないって言われた』って」

「・・・分かった」

この後、説得してもらう形で、病院代は友人の保険料で払ってもらうことになりました。

そして、この事故のせいで私たちの友情も簡単に崩れ去ってしまったのです。

最後に

あの事故以来、数年は、人の車に乗ることが怖くてフラッシュバックを起こすことも度々ありました。

今となっては、切れるべき友人だったんだなと割り切っていますが、当時は、事故に巻き込まれるわ、友人も失うわで散々でした。

ただ、あの時助けてくれた女性に「一歩間違ってたら、命はなかったよ」と言われたことが、今でもトラウマのように刻まれています。

安全運転を心がけていれば、車はとても便利な乗り物です。

しかし、たった一つの不注意や慣れが、命を奪いかねない事故へと発展してしまいます。

そして被害者にも、最悪の場合には加害者にもなるのが車の恐ろしさだと思うのです。

私も何度か不注意で事故を起こしたことがあるので、今回このエッセイを書きながら、「最近ちょっと運転に慣れすぎていたかな」と反省をしました。

是非ともこのエッセイを読まれた方は、私のように事故に巻き込まれないように、そして加害者にならないように、頭の片隅に入れてもらえると幸いです。

便利なものほど、使い方を間違えた時の代償は大きいから・・・。

 

ナイーブな私に勇気をください

  1. TK1979 より:

    忘れもしない…を読んで
     クルマは便利な乗り物ですが、ひとたび事故を起こせば道路交通法違反で起訴されます。即ち法律違反です。
     改めて事故の重大性を再確認できました。
     私は自己変身願望が強いらしく、特にクルマの運転には向いていないようです。運転はもうやめました。笑

    • オリエンタル納言 オリエンタル納言 より:

      いつも読んでくださり、ありがとうございます!
      とても便利な乗り物でもあり、簡単に命さえも奪ってしまう恐ろしいものでもあります。私もこのエッセイを書きながら、慣れていた気持ちをもう一度、見直すきっかけとなりました。
      安全にそして便利に乗るためにも、私も、そして一人ひとりの意識もとても大切なんだと思います。

  2. モト より:

    親も親なら子も子って感じですね。
    自分のことしか考えず、お金のことしか見えてない。
    こうゆう人は車出してもらっても
    『悪いわねー、運転ご苦労さまー』
    って口先だけで交通費は出さない人なんでしょうね(偏見)笑

    運転手って誰か乗せてる時はその人の命も預かってるんですよね、もし何かあった場合は責任を取らなければいけないし、被害者を出して加害者になる可能性もあるって理解して運転しないと。
    日々が当たり前になった時にそんな事は忘れてしまい、何かあった時に思い出す。
    人生と一緒ですね。
    慣れた時に驕りやミスを生み、何かが起きた時にその人の本性が出る。

    長い付き合いにならなくて良かったことと、納言さんに今があって良かったです。

    • オリエンタル納言 オリエンタル納言 より:

      読んでくださり、ありがとうございます。
      最初は心配してくれていると思っていたんですが、まさかお金のことしか考えていなくて、すごくショックだったのを覚えています。
      車に乗るようになって、交通手段として手放せない存在になっていますが、常に危険と隣り合わせのものを扱っていることを、意識しないといけないなと改めて感じることができました。
      今では、縁が切れて本当に良かったと思っています。 笑

  3. may,meiko より:

    元自動車整備工場で事務をしてたので、事故対応はなんとなくわかる。
    けど、いざ当事者となると焦って普段と違う動きをしてしまうのが人間。

    でも文に出てきた友人は、何に対しても人任せで、相手の気持ちを考えない(よく言えばマイペース)タイプなんだなと読み取れた。

    若い頃は、今を生きるのが精一杯で善人悪人も区別がつかなかったからすごく気持ちが分かって辛くなったよ。

    当時のオリナゴに言いたい、よく耐えて頑張った!
    それがトラウマになったのは痛手だけど、自分と馬が合わない人を切り捨てていいと気づけた事は素晴らしいよ✨

    私もだんだん身についてきたけど、近所に住んでてなんとなく付き合いが続いてたけど
    大人になって価値観の違いに気づいてすぐ付き合いやめたよ。
    すごくスッキリした!!

    • オリエンタル納言 オリエンタル納言 より:

      読んでくれてありがとう!!!
      当時はすごくショックだったけれど、よくよく考えてみると、きっと彼女自身も、自分のことしか考えれひとをないし、意見に流されてしまう性格だったのかなって。
      お母さんに対しての絶対感が強かったのも影響しているのかなと思うと、なんともいえない気持ちになりました。
      今でもあの事故のことを振り返ると、やっぱりおかしいなと思うけれど、早い段階で知ることができて良かったなとも思えようになった私は、大人になったんだなって思いました。笑
      車社会だからこそ便利ではあるけれど、それと同じように命に関わること乗り物を扱っていることを、常に感じていないといけないよね。

タイトルとURLをコピーしました