「納言ちゃん!行こうよ、春日部に!」
そう彼に言われて急遽弾丸の春日部旅行が決まりました。
それはクレヨンしんちゃんの聖地とも呼ばれるイトーヨーカドーが、27年の歴史に幕を下ろすことになったから。
その事実を知ったのは少し前のことでした。
たった一度だけ、聖地巡礼のために訪れた場所。
その場所があらゆる理由を経て、11月24日に終わりを迎えることになったのです。
どこかで「最後を見届けたい」そんな気持ちがありましたが、ワタシが住んでいる場所からはかなりの距離があり、そう簡単に「行きたい!」と思っても、行ける場所ではありませんでした。
だからさよならを言えずに、このまま別れを惜しむことしかできないと思っていました。
眠れない前夜
そんな気持ちを知っていた彼は、どこかで思っていたのかもしれません。
「閉まる前に春日部に行ける方法はないか」ということを。
そしてワタシ自身も何度も「行きたかったな・・・最後にもう一度だけ聖地巡礼をしたかった」そう無意識に口にしていたような気がします。
そんなある日、たまたま友人たちと旅行に行く予定がなくなり、その日をどのように過ごそうかと彼と話していた時に、冒頭の言葉を言われたのです。
「それって本気で言ってる!?」
「もちろん本気だよ。行くしかないでしょ。最後だよ」
「そうだけどさぁ・・・」
「これはもうどれだけお願いしても、もう二度と行くことができないんだよ。明日しか時間がないなら、これはもう行くしかないよ!ファンなら行くべきだよ」その言葉に胸を打たれ、私たち夫婦は急遽春日部に行くことを決めました。
その夜は、興奮と嬉しさと、寂しさであまり眠ることができなかったのです。
思い出を塗り替えて
いつもなら早起きが苦手なワタシも、この日ばかりは一番にベッドから出て、身支度を始めました。
しんちゃんグッズに身を包み、聖地巡礼する気持ちを高めて車に乗り込んだのです。
春日部に向かうまでの道中では、ひたすらクレヨンしんちゃんの音楽をかけてテンションを上げていきました。
嬉しさと無くなってしまう悲しさで、その時の感情はとても複雑でした。
けれども最後の最後になってしまうこの日を、全力で楽しもうと思ったのです。
かつて元彼と一度だけ訪れた春日部を、今度は生涯を共にすると決めた彼との思い出に塗り替えるためにも。
大勢の人たちが惜しむ中
春日部に到着して、一番初めに訪れた場所がイトーヨーカドーでした。
たくさんある駐車場はほとんど埋まっており、店内も多くの人でごった返していました。
誰もが入り口でスマホ片手に写真を撮り、思い出を残そうと、この景色を忘れないようにしようと、一生懸命なように見えたのです。
そんなワタシもしっかりとスマホの中に、そして頭の中にも記憶として、記録として残し、3階にあるしんちゃんのブースへと向かいました。
聖地を巡り
イトーヨーカドーで売られている関連グッズを買い、しんちゃんのブースでたくさんの写真を撮りました。
多くの人たちがいることも忘れて、その時間を彼と共に堪能しました。
それから少し場所を移動して、聖地巡礼をすることにしました。
春日部駅の近くは、どこか私たちが住む場所と似ているような空気感があり、「なんだか懐かしいね」なんて映画に出てくるような言葉を言いながら、その景色を何度も何度も目に焼き付けていたのです。
至る所にしんちゃんに関する看板やオブジェ、それに建物もありました。
ファンからしたらこれほど幸せで、満たされた時間はありませんでした。
物心ついた頃からずっと変わらず好きでい続けたアニメ。そのアニメが舞台となった場所にいること自体、ワタシにとっては奇跡的な時間に思えたのです。
別れを惜しむように
全てを回り終えた後、もう一度イトーヨーカドーの中へと入りました。
朝来た時よりも人は増え、それぞれがそれぞれの思い出を、懐かしさと共に噛み締めているように見えました。
春日部に住んでいるわけでもないワタシでさえ、「懐かしい」という感情と「無くなってしまう」悲しさで胸がいっぱいになっていたのです。
時代の流れとともに最先端で便利な商業施設は次々と建てられていき、それに伴い昔からあった場所はだんだんと無くなっていく。
その現実が余計に虚しく、そしてワタシも含めて多くの人が失って初めて気づくことになるのです。
当たり前にあった場所が、無くなるはずがないと思っていた場所が、時代と共になくなってしまうことがあるのだと。
そしてそれはこれから先、もっと増えてしまうことも・・・。
ありがとう、そしてさようなら
幻の春日部弾丸旅行は、あらゆる感情を思い出させてくれました。
たった2回しか行ったことのないあの場所は、ワタシの心に「懐かしい」という感情を抱かせてくれました。
便利になった世の中に感謝することもあれば、思い出の場所が消えていくことに悲しみを抱くこともある。
それを今回、強く、深く感じることとなったのです。
もしもイトーヨーカドーが無くならなければ、聖地巡礼をすることもなかったかもしれません。
ここまでの行動力を起こすこともなかったかもしれません。
そしてワタシは、今回の旅行を経て改めて「しんちゃんを好きになってよかった」そう思えることができました。
この気持ちはずっと変わらず持ち続けていくでしょう。
イトーヨーカドーがなくなってしまっても、あの日の思い出も、記憶も、心の中に大切にしまいながら。
ナイーブな私に勇気をください