やりがい搾取の環境で

保育士時代の体験談・過去のトラウマ

私は友人と遊んだ帰り道、電車に揺られながらふと携帯を見ていました。すると、ある内容が私のスクロールする手を止めたのです。

そこに書かれていた内容は、「新卒の保育士が体調を崩して、疲労骨折の疑いがあると診断された」と書かれていました。他にも就職先の園では、残業が出来ないから全て持ち帰りをしなければいけなかったり、先輩保育士からのフォローがないまま全て新人がやらなければいけなかったりと、見ていて胸が苦しくなる内容のものばかりでした。

しかし、これが現状です。

そして彼女の園だけでなく、他の園でも、そして私が勤めていた場所でも同じようなことが起きていました。

残業代は限られた時間の手当しか入っておらず、ほとんどの職員はタイムカードの退勤ボタンを押した後、残って仕事をしていました。

休憩なんてもちろんなくて、乳児の担任をしているときは「子どもがお昼寝をしている時が、あなたたちの休憩時間だから」と言われていました。

その休憩時間に、私たちが好きなことをしているとでも思っているのでしょうか。

いいえ違います。

昼寝の間、子どもを見る先生1人を残して、後の人は草むしりや溝掃除、コロナ禍の時は玩具の消毒も毎日やっていました。

それがたとえ炎天下でも、真冬の外でもやることが当たり前だったのです。

「暑いから気をつけてね」なんて気休めを言いながら、夏は涼しい部屋、冬は暖かい部屋で指示をしている人たちに、心の中で「だったら一緒に手伝ってよ」と何度思ったことか。

そして、給料日になるとしっかり休憩分が引かれた額で支給されていました。

誰も休憩する暇なんてありませんでした。

一息ついて、携帯を見たり好きなことをしている人なんていませんでした。

むしろそんな時間なんて、ありませんでした。

やりがい搾取の現状

私たちは「奉仕」という言葉を度々使われ、ことあるごとに「子どもため」「保護者のため」「保育園のため」と言われ続けてきました。

なぜそこに「保育士のため」という言葉が存在しないのでしょうか。きっと、私たちは利用しやすいコマとして見られていたのだと思います。

しかし、その現状をわかっていても、誰1人「おかしい!」「間違っている」とは言えませんでした。そこにはやっぱり弱みのように握られている「やりがい搾取」があったのかもしれません。

理不尽な要求とひいき

私が勤めていた保育園では、度々ひいきをされることがありました。

例えば、運動会や発表会などの行事について話を園長や主任に持っていく時、5年目のA先生の考えと10年目のB先生の考えが同じだったとします。行事の案をA先生が伝えに行くと、必ずダメ出しをされるのです。

理由はただ一つ、「若いから」。

同じ学年同士で話し合い、全ての意見をまとめた上で行ったとしても、若いという理由で話すら聞いてもらえないことが当たり前でした。

そして必ず言われるのです。

「あなたたちは若いから、何も考えていない」と。

その報告をB先生にすると同じ案をすぐさま上の人たちに言いに行く。

すると面白いことに、今度は簡単に許可が下りるのです。

そして「さすがB先生!やっぱり経験が違うわ」とB先生だけが褒められることもよくありました。

他にも私たちの間で、子育てハラスメントと呼んでいたものがあります。

子育てハラスメントとは、結婚をして子育てをしている先生は保育に関しても素晴らしいし、プロとして認めている。けれども、未婚で子育て経験がない先生、あるいは結婚をしていても子どもがいない先生は、保育士として失格というようなレッテルを勝手に貼られるとても理不尽なハラスメントです。

結婚が全てではないし、中には不妊治療をしていて、授かりたくても中々難しく悩んでいる人もいます。そんなことは、お構いなしにデリカシーのない発言を言い放ち、沢山の人が傷ついてきました,,,。

しかし言っている本人はまるで気づいておらず、それも一つのコミュニケーションだと思っていました。

保育士の本当の仕事は?

残念ながら、いまだに時代錯誤な考え方は変わらず、保育士の世界では年功序列と、園長や先輩の言うことは絶対という考えが根強く残っています。

どれだけ理不尽な環境であっても、どれだけ傷つけるようなことを言っていても、ほとんどの保育士は、笑うことで自分を守ることしか出来ませんでした。

とても悲しいことだけど、これは氷山の一角に過ぎません。

保育士の離職率が高いのは、給料面も大きく関係していますが、昔からの考え方やエゴを押し付けて、人ではなく召使のように扱う環境が沢山あるからこそ、子どもたちの笑顔だけでは、どうしてもカバーできない辛さがあるのだと思います。

これは私の個人的な考えになってしまうのですが、新人の保育士さんの仕事は、上司に対して忖度する術を学ぶことでも、全ての雑用を任されることでもないと思います。

保育のプロとして子どもたちとの信頼関係の作り方を、一緒に過ごしていく中で学ぶことが仕事です。

そのためにはまず自分自身が楽しんで、子どもたちと全力で遊ぶことが一番大切ではないでしょうか。

きっと、これも理想論だと言われてしまうかも知れない,,,。

それくらい保育の現場は人手不足と人間関係、そして膨大な仕事量で疲弊しているということを表している気がします。

どれだけ効率よく仕事をしたとしても、先生が疲れていたり、忙しそうにしていたらきっと子どもたちにだって伝わってしまうでしょう。

それは無意識のうちに子どもたちに気を遣わせて、顔色をかがいながら集団生活をさせているようなものなのです。

大切にし続けてきた想い

子どもを想う気持ちに、新人もベテランもありません。

けれども、保育園に入園してきた子どもたちが、初めは何も分からず不安で泣けてしまうことと同じで、新人の先生だって、初めての社会人になって新しい環境で仕事をすることに少なからず不安を持っているはず。

その不安を取り除きながら「保育士って楽しい仕事なんだ」と伝えるのが、先輩の役割だと私は思っています。

こんな偉そうなことを言っている私も、働いている頃は、後輩たちとの関わり方に随分悩みながら過ごしてきました。時には傷つけてしまうこともあったと思います。ただ、一つだけ心に決めていたものがありました。

それが「同じクラスになったからには、『大変なこともあったけれど、1年間楽しく子どもたちと向き合えた』と思ってもらえるようにしよう」という想いは、常に持ち続けながら一緒に仕事をしました。

かつて同じクラスになった先生に、「同じクラスになったら、一年楽しく過ごしたいし、過ごしてほしい」と言われたことが想いの原点です。

保育士不足と言われていても、保育士を目指す人は沢山いると思います。だからこそ、未来の先生たちが「保育士って大変だな」「辛いな」と思ってしまう環境にはどうかしないでほしい。

「保育士って、大変なこともあるけれど、素晴らしい仕事なんだ」と思ってもらえるような環境が増えていくことを、願うばかりです。

そして微力だけれど、こうして伝えることで私も未来ある保育士さんの環境改善に貢献できていたら、これほど嬉しいことはありません。

これは保育士だけではなく、あらゆる職場に言えることだと思います。

悪い雰囲気で仕事をするより、お互いが思いやりを持って関わることで雰囲気も良くなり、それぞれが働きやすくなるのではないでしょうか。

たった少しの思いやりと、心遣いさえあれば。

 

ナイーブな私に勇気をください

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