番外編 セフレに恋した男 後編

オリエンタル納言日常日記

初めてデートした日から、急速に私たちの距離は縮まっていました。LINEの頻度も以前よりもかなり増え、時間が合えば電話も頻繁にするようになりました。

特別話す内容が変わったわけではなかったけれど、たわいもない会話をしながら、笑ったり共感したりする時間が、幸せだったのです。

過去の恋愛の話をすることも増え、私のタイプを聞かれたり、どんなデートを次はしたいかなども積極的に聞いてくれました。

これは付き合うフラグが立っていると、密かに期待に胸を膨らませていたのです。

しかし、人生はそう甘くはない。だからこそ、今こうしてネタとして書いているのですが、二人の関係がいとも簡単に崩れていくことを、この時は微塵も感じていませんでした。

デートを重ねて

1回目のデートから、短いスパンで何度も会うことがありました。基本的には、どこかにランチに行った後はマッシュの家に行き、テレビを見たり、話をしたりするのがいつもの流れになっていました。

部屋に行くと私の好きなケーキが用意されていて、マッシュなりのおもてなしをしてくれます。

その頃からでしょうか。

急激に距離が縮まり、手を繋ぐことや軽いキスを交わすことが増えたのは。それ以上の関係にいかないところも、マッシュなりの対応なのかなと、好印象のままデートを終えていました。

時にはマッシュの家に行き、一緒に料理を作ることもありました。側から見たらカップル同然の光景に、(そろそろ付き合いたいな。今の関係ってどうなんだろう)と疑問を抱くようになっていました。

付き合おうと言われることもなければ、キス以上の関係に進むこともない、休みが合えばデートをして、キスをして、カップルみたいなことをする。

少しだけ焦り始めていた私は、次のデートでマッシュがどう思っているのかを、聞くことにしたのです。

5回目のデートと初めてを・・・

5回目のデートも美味しいケーキを買い、マッシュの家に行くことになりました。

ソファに座り、たわいもない会話をしていく。少しだけ緊張していたせいか、中々ケーキが進まず、心臓がトクトクしている音がやけにうるさく感じるほどでした。

「ねえ、あのさ。聞きたいことがあるんだけど・・・」

「えっ?どうしたの?急にかしこまって(笑)。納言ちゃんらしくないじゃん」

「あのさ、マッシュって私のことどう思ってくれてるの?最近一緒に遊ぶことが増えて、私はいいなって思ってるんだけど・・・」

「僕?もちろん納言ちゃんのこと好きだよ。一緒にいて楽しいし。もっと長く居たいなって思うもん」

「本当に!?それはすごく嬉しい。よかった」

いや、何もよくない、ここで注目すべきことは好きだと言ってくれてたけれど、付き合おうとは言われていないこと。それに気づかず私の気持ちは完全に舞い上がってしまったのです。

少し冷静に考えて「付き合ってくれる?」なんて聞けたら、心の傷は最小限で抑えられたかもしれないのに。

しかし肝心なことを聞かずに舞い上がっていた私は、嬉しさのあまり、マッシュからのキスを受け入れ、5回目のデートで初めて体を許してしまったのです。

夕方の空から差し込む光は、窓を通して部屋の中をほんの少しだけ赤く染め、二人を包んでくれているようでした。

その瞬間が一番、幸せだったと思います。

彼の温もりを感じ、両方の腕でギュッと抱きしめた背中は、微かに熱を帯びていました。「ようやく、愛してくれる人が現れたのかもしれない。幸せになれるのかもしれない」と希望を抱いて。

衝撃の事実

全てが終わった後、マッシュは私の頭を撫でながらポツリポツリと語り始めました。

「僕には、ずっと好きな人がいるんだ。その子には別に好きな人がいてね、僕たちはただのセフレ関係なんだ。『どうしたら僕のことを好きになってくれるの?』って聞いたらね、『好きな人に彼女ができたら』って言われちゃったんだ。だから、あの子が諦めてくれるまでに恋人を作ろうか、寂しくないように別の子で気を紛らわしているんだよね。でもよかった、納言ちゃんならその役割を果たしてくれそうだよ」と。

私は耳を疑い、言葉にならないほどの衝撃告白に、まさに開いた口が塞がらなくなっていました。

私はてっきり、もう付き合えるものだと思っていました。だからこそ、時間をかけて関係を築いてきたはずだったのに、そもそも見ていたのは私ではなく、別の女性だったこと、そして、その女性とはセフレ関係だけれど、諦めてくれるまで寂しさを紛らわすために他の人で誤魔化していることを、終わった後に打ち明けられたのです。

今の私は、その女性の代わりに心を満たすだけの存在として、利用されている以外の価値がないことを突きつけられたも同然でした。

「ちょっと待って!そんな話急に言われても困るよ。だって、さっき『好きだよ』って言ってくれたじゃん・・・。なのにどうして、別の女性の話が出てくるの?」

「だって、聞かれてないから。僕はずっとその子のことが好きだし、納得してくれないなら言わせてもらうけど、納言ちゃんとの関係は、セフレの子が振り向いてくれるための間だけだよ。もしも『やっぱり僕と付き合いたい』って言われたら、その子の所にすぐにでもいくつもりだよ」

「えっ、私のことは遊びのつもりだったってことだよね。その子に振り向いてもらうための道具として使ってるようなものじゃん!」

「仕方ないよね、だってその子は女性らしくて、僕の理想なんだ。でも納言ちゃんは、どちらかと言ったら、男の子みたいな顔してるし、あんまりタイプではないんだよね。でも趣味も合うし、オシャレだったから一緒にいたいなって思っただけ。僕のタイプはね、清楚系だから」。

全ての発言にパニックを起こし、泣く寸前まで傷つけられていました。

それでも唇をキュッと噛んで、泣くことだけは必死に堪えていました。絶対に泣かない、泣いたら負けだ、そう心に何度も言い聞かせて。

最後に「どうして、私としたの?」と聞くと「単純に興味があったし、納言ちゃんがして欲しそうだったから」と言われました。

屈辱的な発言と自存心をボッキボキに折られたまま、その日は帰ることになり、もちろんマッシュは送ってくれるわけもなく、挨拶もせずに部屋を飛び出す形となったのです。

屈辱的な涙を流して

家に帰ると緊張が解けたのか、悔しさと悲しさと惨めさで涙が溢れて止まりませんでした。

私は昔から男顔だと言われてきました。今まで付き合ってきた元彼たちにも、何度も女性らしい服装を求められてきました。

だからこそ自分でもよく分かっていました。私のようなタイプは求められていないことを、そして、可愛らしく女性らしい人になれない自分を責め続けるしかないことも。

どんなに泣いても、どんなに腹がたっても、努力だけではどうすることも出来ない無力さに、絶望したまま朝を迎えたのです。

目が覚めるとマッシュから、メッセージが届いていました。

「昨日はごめんね。納言ちゃんを傷つけたのかな。でも、セフレのことを忘れられないんだよね。それでもよければこれからも遊んでほしいな。もちろん、納言ちゃんのこと好きって言った気持ちは、嘘じゃないから」と。

既読をつけたまま、メッセージと共に彼自身も消去しました。

また一つ、私の恋は無惨にも終わりを迎えてしまいました。最初から優しい人に警戒心を持つことを、何度経験すれば私は学ぶのか。

そしてこの出来事で、私はさらに恋愛に対して奥手になり、どんどん負のスパイラルにハマっていくこととなるのです。

最後に

今回のマッシュとの経験は、私の中でもとても印象深く残っています。

優しさに惑わされて、周りを見ることをしなかった自分にも非があるでしょう。

マッチングアプリは、とても便利です。しかし使い方や、やり方を間違えてしまうと、私以上に取り返しのつかないことになってしまうこともあります。会ったこともない人と関わることは、ある程度のリスクが伴うことを理解することが、何より大切だと思うのです。

読んでくださる皆さんの中には、これから恋愛を楽しもうと思っている人がいるかもしれません。

マッチングアプリをやっている人、もしくはこれから始めようとしている人、それぞれいるでしょう。知らない人と簡単に出会えるからこそメリットデメリットを十分に理解した上で、恋愛を楽しんでほしいと思います。

私のように無駄に傷つかなくてもいいように、そう心から願い、マッシュ編を終わりとさせていただきます。

〜完〜

 

ナイーブな私に勇気をください

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