1日だけのプリンセス

コラボ企画

「今日で、毎日プロポーズも最後になります。僕はサプライズがすごく苦手だけれど、納言ちゃんのことを喜ばせることは、誰よりも考えている自信があります。毎日、僕の『結婚しよう』という言葉に、『はい』と答えてくれてありがとう。それも今日で最後です。本当は色々言いたいことが沢山あるけれど、それはこれからの人生の中で伝えていくから、今日はこの言葉だけ、伝えさせてください」

 

僕と、結婚してください。

それが2022年の冬、ワタシの28歳の誕生日の出来事でした。

とても寒い冬の中、二人で初めて行ったディズニーランドで、彼は勇気を振り絞り、シンデレラ城の中に入ったタイルの壁のベンチで、片膝をつき、震える手でそっと紫色の箱をパカっと開けてくれました。

キラキラと光る指輪を落とさないように、慎重に持ちながら、そっとはめてくれたことを昨日のことのように思い出します。

なぜ彼が毎日プロポーズをするようになったのか・・・。それはワタシが恥ずかしがり屋で、本当の時に緊張しないように、いつもの自然な状態でプロポーズというものを受け止めて欲しいという意味が込められていました。

今までの人生の中で、忘れられない誕生日は何度もありました。

けれどもそれは、悪い意味での忘れられないです。

誕生日付近で振られたこと、誕生日間際に好きな人がいると言われ浮気をされていたこと、寄り添う人も祝ってくれる人もおらず、一人で祝ったこともありました。

カップルたちがケーキを一緒に頬張り、「おめでとう」と微笑む姿を見て、何度も「羨ましい」と感じ、そして自分自身と重ねて、とても惨めな思いをしたこともありました。

いつしか年齢を重ねることに恐怖を抱き、孤独の道への一歩を踏み出していることに、不安を抱えながら生きるようになっていたんです。

あの日渡された手紙と指輪を見て、人目を気にせずに号泣したこと、そして心の底から何度も、「ましゅぴ、ありがとう・・・。ありがとう」と声を震わせて一緒に涙を流したこと、それがワタシの忘れられない誕生日です。

憧れたプリンセス

幼い頃、父はよくディズニーのビデオをパチンコの景品で持って帰ってきてくれました。家にある多くのディズニー作品は、父の戦利品です。

幼い頃から魔法というものにトキめいて、真実の愛に憧れを抱きました。

煌びやかな衣装に身を包み、王子様とダンスを踊る姿に強く惹かれ、憧れを抱いていました。

そしてプリンセスたちは言うのです。

「運命の人は、必ず現れる」と。

「真実の愛は、必ずあるのよ」と。

幼い少女には、眩しく輝いて見えていた世界でした。そしていつか、「ワタシにも素敵な王子様は現れる」なんて思っていたこともあったんです。

王子様の格好をしていなくても、たとえ魔法がなくても、白馬でなんか迎えに来なくても、笑ったり、支え合ったりしながら愛を育み合える相手が。

その夢はもう少し大きくなるまで、持ち続けていました。

現実世界では

しかし、現実世界でのことを少しずつ知っていく上で、魔法がないことも、もちろん気づいていったし、真実の愛も、王子様がいないことも気づき始めていました。

どれだけ辛いことが起きたとしても、誰かが見ていてくれて助けてくれる。

やがて今までの苦労は身を結び、幸せになれる・・・、なんてこともありませんでした。

辛い時に誰かが助けてくれるのではなく、自分自身で守っていかなければならなかった。

どれだけ夢を抱いていたとしても、容姿がいい人には勝てないし、得をするのはいつだって容姿が良くて、容量のいい人ばかりでした。

反対に、不器用で容姿のことでいじめられていたワタシは、自分の特技を活かして、なんとか社会に溶け込む術を身につけなければ、この世の中では埋もれてしまうということにも気付かされていったのです。

交際の果てに

それでも大人になれば化粧を覚え、少しずつ自分を魅せるやり方を学んでいきました。

相手が喜ぶことを自然と身につけて、言葉で伝えることも生きる中でとても重要なことだと気づきました。

人それぞれには役割があって、ワタシの役割はプリンセスではなく、村人ポジションなのも十分すぎるほど理解していたんです。

それでもいつか、好きな人ができて、一人のことを愛し、そして末長く幸せに暮らすことだけでも叶えることを密かに夢に抱いていました。

ただ、付き合う人を間違え、関わり方もミスっていたワタシに、真実の愛なんて遠い遠い雲を掴むような話になっていたんです。

「今度こそ!」と思っていても、運命の相手はワタシではありませんでした。

真剣に選んだはずの王子様は、また別の人のところへ去っていきました。

「次こそは!」と意気込んでいても、「何か違う」と言われて離れられたことも多くありました。

ありのままの自分でいることの難しさ、そして真実の愛を見つける難易度の高さを痛感し、その度に心がポキッと折れていく音を聞いていたんです。

いつしか悟りを開き始めたあたりで、「もうこのまま一人で自由に生きていくことも、悪くないな。いっそのこと、全てを投げ出して、自由奔放に生きていこう」とプリンセスになる夢も、そして運命の相手を見つけることも諦めてしまったのです。

27歳の夏

27歳の夏、迷走に迷走を重ねていたワタシは、変な社長に会っていたり、マッチングアプリで片っ端から色々な人に会って、その場しのぎの楽しさを感じながら生きていました。

保育士だって今はやりたいか、わからない。

そんな時に「新しいことを始めよう」と言ってくれた人がいれば、その人についていき、騙されていると分かりながらも時間を作って会いにいってしまう。

「君は素敵だね」とお世辞だと分かりつつも、寂しいから心の隙間を埋めるために、お互いに利用し合う。

とてもじゃないけれど、幸せになりたい人が取るような行動ではないことを、ひたすらやり続けていたんです。

そんな時でした。

運命の人が現れたのは。

ましゅぴとの出会い

彼と出会った時、ワタシは一つだけ決めていたことがありました。

「次にマッチングアプリでいいねをしてくれた人と、やり取りを最後にアプリをやめよう。それで交際できなかったとしても、それもまた人生だから」と。

そして一番初めにいいねをしてくれたのが、ましゅぴだったのです。

初めて会った時の彼の優しい眼差しは、今まで受けたどんな視線よりも温かく、優しかったです。

付き合ってからの行動一つひとつが、思いやりと愛に溢れていました。

いつしか互いに結婚を意識するようになりましたが、側から見たらそのスピードは早く、目まぐるしく感じられていたかもしれません。

しかし、今まで本当に色々な人と出会い、あらゆる言葉や態度を味わってきたからこそ、彼の誠実さに、人生で初めて信頼することを決めました。

どれだけ過去にすがり、立ち止まってしまっていても、見捨てることなくそばに居続けようとしてくれた彼のことを。

幼き日の夢

ある日のこと、ポロッとでた言葉は、きっとワタシの本心であり、そして夢を語る子どものような純粋さを持っていたと思います。

「いつか、ディズニーランドでプロポーズされるのが夢なんだ」という諦めかけていたことを言っていました。

後になって、「あの言葉で僕は、プロポーズをするならディズニーランドにする」と決意をしたことを教えてくれました。

サプライズが苦手で、すぐに話してしまう性格の彼に、黙って当日を待つことは、とても難しい作業だったことでしょう。

それでも喜ぶ顔を浮かべて、そして夢を叶えた姿を見たいという一心で、必死に当日まで隠し通してくれました。

たった1日だけの夢を叶える、その日のために。

1日限りのプリンセス

そして冒頭で話した、ディズニーランドでのプロポーズへと物語は進むこととなります。

あの日の天気はとてもよく晴れていて、今まで苦労した全てのことを、精算してくれているかのように美しかった。

恥ずかしがり屋なワタシのために、少し離れた場所で、緊張と寒さで震える手を握りながら一緒に流した涙のおかげで、たった1日限りのプリンセスになることができたのです。

綺麗なドレスに身を包み、魔法の中で物語が進んだわけではありません。

白馬に乗って登場したわけでもなければ、一緒に踊ったりしたわけでもない。

けれども、幼い頃からの思い出の場所で、伝えられた言葉には、どんなものよりも価値がありました。

今までの人生を振り返ると、きっと時計の針は止まり、時刻は分からなくなっていたのかもしれません。

だからこそ、過去に囚われ、自分自身をも大切にすることができなかったんです。

しかし彼と出会い、本当の優しさに触れた時、今まで動かなかったものがようやく音を奏でながら動き始め、そして新たな人生という物語が進み始めたような気がしました。

たった一度きりの特別な日は、私たちにとって色々な意味で忘れられない日になったのです。

刻んでゆくシワ

今まで歳をとることに怯えている反面、いっそのこと全てが終わってしまえばいいと思う気持ちもありました。

少しずつ容姿は変わり、若さが失われていくことも、とても怖かった。

それはきっと、目には見えない孤独と戦い続けなければならないことに、一番恐れを感じていたからだと思うんです。

しかし最近では、当たり前の日常の中に大切に思い合える相手がいて、小さなことでも幸せだと噛み締められる瞬間が、とても愛おしく思えるようになりました。

たくさん笑い、時には泣いて、たまに怒って、そうして刻まれたシワを眺める時間が好きなんです。

それはきっと、シワという形になって、思い出が刻まれていくことを知れたからなんだと思います。

今では過去に付き合ってきた元彼に対しても、少しだけ許す気持ちを持てるようになりました。

もしも、大切なことに気づかずに進んでいたら、今のような幸せは訪れることはなかったと思うんです。

辛いことを経験してきた分、沢山涙を流してきた分、今の幸せの大切さに気づくことができているんだと思います。

これからの人生を彼と共に歩みながら、年齢を重ねていきたいと思います。

そしていつまでもこの幸せが続くように、互いに手を取り合い、道なき道を進み続けようと思うのです。

大切なたった一人の、少しだけ頼りないワタシの王子様と一緒に・・・。

最後に

今回このリクエストをいただいた時、何を書こうか本当に悩みました。

せっかくならと思い、この話を書かせていただきました。

そしてこのリクエストをくださった方が、ちょうどお誕生日だったということで、最後にワタシなりの言葉を綴り、終わりたいと思います。

お誕生日おめでとうございます。

このエッセイが投稿される日には、誕生日は過ぎてしまっているので、少し遅くなってしまいましたが、言葉を贈らさせてください。

誕生日は、その人自身の物語がスタートした大切な日だとワタシは思っています。他の人からしたら「何でもない日」かもしれないけれど、紛れもなく、この世に生を受け、新たな物語が始まったんです。

今までの人生は、楽しいことばかりではなく、もしかしたら大変なこともあったかもれません。

そして歳を重ねていくうちに、やりたいことや、今取り組んでいることもあるかもしれません。

もしも、あなた自身のやりたいことや目標があるのなら、まっすぐ突き進んで欲しいと思います。

ワタシは自分の誕生日よりも、家族や友人の誕生日になるとワクワクするんです。生まれてきてくれて、ありがとう。
出会ってくれて、ありがとう。

そんな気持ちが誕生日になると、爆発するんですよね。笑

SNSでの繋がりとはいえ、あなたと出会えたこと、そしてこうして誕生日を祝うことができたことは、とても嬉しいことです。

この一年で新しい発見があるかもしれないし、嬉しいことも沢山起きるかもしれない。

時には道に迷ったり、どうしようもない感情と闘うこともあるかもしれない。

でも、どんな物語にも楽しい話ばかりじゃ、少し物足りなさを感じるように、人生だって同じことだと思うんです。

山あり谷あり、そして時にはお宝ありだからこそ、人生は面白い。

そうワタシは思うんです。

この一年がどのように進んでいくのかは、誰にも分からないことです。

ただ、生まれた瞬間からあなたの物語は始まり、そして今も完結することなく進み続けている。まさに途中の段階で、この一年もきっと楽しいことに溢れると信じています。

どうか、世界にたった一つしかない、あなただけの物語をより良いものにしていってください。

お誕生日おめでとうございます。

この一年が幸せと笑顔で溢れますように、心から願いを込めて・・・。

 

 

ナイーブな私に勇気をください

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