女性に呼ばれて、再びリビングに3人が集まりました。
女性の前の席には彼が座っており、その横にはなぜか選んだはずのない赤色のパワーストーンを大量に持たされている殿の姿がありました。
一番始めにワタシが選んでいたパワーストーンは彼が身につけ、そしてワタシはというと首に高価なネックレスを付けたまま、このカオスな状況を把握するために頭をフル回転させていました。
「あなたが選んでくれたストーン、それを元にダウジングをして選ばれるはずのストーンの名前があらかじめこの紙に書いてあるの。さぁ、あなたはどのストーンに魅力を感じる?エネルギーを感じる?手をかざしてみてごらんなさい」
「手をかざすんですか?」
「そうよ。石の体温を、エネルギーを感じるの」
「・・・わかりました」
一番安めのやつを・・・
自分で選んでおいてなんですが、ピンとくるやつを探すことよりも、今この状況を理解するほうが何倍も大事だと思っていたので、気もそぞろの中で適当に選んだストーンを女性に伝えました。
すると、彼女なりに選んだ石に番号を振っていたらしく、ワタシが選んだ石を4番と名づけて呼んだのです。
「あなたが選んだのは、右手の4番ね。もう一つ、あなたには石が必要だと出ているんだけど、他に気になるものはないかしら?」
「いや、他には・・・特にこれといってないですかね」
「・・・あらぁ、おかしいわね。私がダウジングをした時は確かに二つの石の番号が出たの。ほら、紙にも4番、5番と書いてあるでしょ?」そう言われ、紙をめくると確かに④、⑤と書かれていました。
しかし、たった一つでも渋ってしまうほどの値段にもかかわらず、まさかの2個目のストーンを勧められていることの方が気になって選ぶどころではなくなってしまったのです。
設定を忘れたダウジング
部屋を出された時、「あなたがいるとペンデュラムが回らないの」と言われていました。しかし、石を二つ選べと言われた瞬間に、女性はペンデュラムをブンブン回し始めたのです。
あまりの勢いに、ワタシは笑いを堪えることに必死になっていましたが、殿もましゅぴも目線を逸らしながら笑いを堪えているようでした。
さっきまでの設定はどこへ行ったのやら。
ワタシの時は回らないと言ってはずの振り子は、女性の意思通りグルグルと「いつもより多めに回っておりま〜す!」と言わんばかりのスピードで回り続けていました。
あまりにも露骨に回るもんだから、(何だよ。普通にグルグル回ってるじゃん!あぁ、やっぱりこの人、嘘つきの人だ)と思い、さっきまで微かに残っていた気持ちは一気に消滅して、早く帰りたい気持ちが急上昇していったのです。
トウガラシ?
一刻も早く帰りたいワタシと、二つは売りつけたい女性の攻防がここからしばらく続きます。
「人を変えながら何度もダウジングをやってみても、やっぱり二つは必要だって言われるのよね。ほら、お友だちが持っている赤色のストーンたちで気になるものはない?」
「いや、ないですね」
「赤はね、魔除けとしてとても重宝されているの。あなたの邪気を守ってくれる性質が多く含まれているのよ。あなたが選んだ水晶と一緒に赤色のストーンを身につけることで、より強力な力が得られるの。彼女の持っているもので、気になるものは本当にないの?」
「すみません・・・ないです」
「なら、こっちにきて。ここに飾られている赤いストーンたちはどう?気になるやつが一つくらいあるでしょ?」
「うーん。やっぱりないですね」
「そう・・・。まぁ、選ばないっていうのにも意味があるのよね。きっと」
赤色のストーンは、どれも¥30,000以上するものばかりでした。選ばれた4番のストーンが約¥20,000ほどするものだったので、彼女的には合計¥50,000以上は買っていって欲しかったのでしょう。その後も、何度も何度も「トウガラシの色は〜」とか「赤色はね、魔除けの意味があるんだけどね」と言い続けていました。
商売人気質が仇となる
どれだけ言ってもワタシが買おうとする意思が見えないことに、ようやく彼女も二つ目の石を勧めることを諦めたように見えました。
しかし、「あなたが選んだ石は、買うわよね。あっ、でもねカードが使えるって言ったと思うんだけど、実は夫がねネットフリックスとかのサブスクと連携していて、それを間違えて切ってしまったの。そしたら機械が故障してしまってね。だから、できれば現金で今いただきたいの」と。
おいおい、話が全然違うだろ。
ここに来たはじめの頃は、「カード払いもできるから、安心してね」的なことを言っていたにも関わらず、2本目を買わないとわかった瞬間に、あまりにも下手くそな嘘を交えながらカードの機械が使えなくなってしまったと言われたのです。
この瞬間に、誰もが同じことを思ったことでしょう。
(あぁ、こいつ完全に欲を出しすぎたな。買わせることに必死すぎて下手な嘘までついてきたな)と。
最大限の礼儀を尽くし、勇気の断り
「そうなんですね。カードが使えれば買おうかなとも思ったんですけど・・・使えないなら持ち合わせもないので、残念ですが今回はやめます」
「あっ。ちょっと待って!なら、あなたたちを信用するから口座振り込みでもいいわよ。何なら何回払いなら支払えるの?」
「いや、うーん。そうですね。でも、カード支払いの方がきっといいと思いますし、縁があればこの場所にまた辿り着くはずですよね?なら、今回は一度家で考えさせていただきたいと思います。お時間いただき、本当にありがとうございました」
「・・・そ、そうね。わかりました。ありがとうございました」
その言葉を最後に、ようやく私たちは解放されることになり、小高い丘の上にそびえ立つ、この怪しげなパワーストーン御殿から退散することができたのです。
帰り際、彼女が「ちょっと待って!」と呼び止め、値札のついた小さな小袋を渡してくれました。そこにはイオンとかでも売っているであろう小さな石が数個入っていたのですが、彼女のせめてもの気持ちを渡してくれたのかもしれません。
1人では行かないように・・・
今回の出来事で個人経営の場所に行くときは、必ず誰かと一緒に行くことを再度学ぶ機会となりました。
巧妙な話術と、世界観に引き込む場所づくりは圧倒されてしまう部分があり、もしも1人で訪れていたら、あわや購入していたかもしれません。
悩み事が尽きず、不幸を呼び込みすぎていた状況なら、心が揺らいでいたかもしれません。
そうならずに済んだのは、殿と彼がいてくれて、彼らの言葉を聞き入れる冷静さを保つことができたからでしょう。
スピリチュアルの世界は奥が深く、世の中には想像以上の力を持っている人がいるかもしれません。
ただ彼女にはきっとその能力はなく、話術と商売人としての技術によってパワーストーン御殿が建てられたのだと思いました。
「納言ちゃん!よくあの場所で買わなかったね!えらいよ。よく耐えた」
「あれは1人で行くのは危険だね。心が弱っていたら買う人がいるのも無理がないほど、言葉が上手だったよね」
「そうだね。でも、みんなどこの時点で『あぁ、この人ダメだな』って思った?ワタシはね・・・」
「ぶん回した時。笑!!!!」
「だよね。あそこで全てが決まった感じしたもん」
「まぁ、なんか旅って感じがしたし、いい思い出になったよね」
「これで一つ、ネタができたんじゃない?」
「そうだね。ならタイトルはこうしようか。『納言、パワーストーンを買わされるの巻』ってね」
ナイーブな私に勇気をください
納言、パワーストーンを読んで
久しぶりの長編、堪能しました。笑
続きものでしたが、間髪入れずに投稿だったので、スピード感があって面白かったです。笑
こちらの方はリアルですので、内容には触れませんが、ダウジングで使用するペンデュラムは、持つ位置によって揺れ方が変わるそうですよ。
ありがとうございます。
いつも読んでくださりありがとうございます!
久しぶりに長編にチャレンジしたのですが、喜んでいただけて書いた甲斐がありました。笑
なかなかできない体験だったので、心のどこかで「もしかしたらワタシのために、こんな面白医出来事が起きたんじゃないか」と思うほどでした。
きっとこれからも、こういった変わった体験があるかもしれません。笑
その時はぜひ、読んでいただけたら嬉しいです。
濃い旅だったね。笑
本当に濃い旅だったね。あれから厄払いに行ったにも関わらず風邪を引いたり、謎の首の痛みに襲われたり、逆に何か持ってきてしまった感は否めないけど、エッセイのネタとしては本当にいいものをもらったよ。笑
また、次の旅に期待だね!