山に籠りたい男 後編

オリエンタル納言日常日記

さて、交際して3ヶ月でまさかの修羅場「俺、山に籠りたい」発言をされ、私の心は完全にかき乱されていました。

山に籠りたい?えっ?自給自足?長年の夢?これからどうなっていくの?と、頭の中は大混乱でした。

しかし、今まで付き合ってきた元彼と比べて趣味も合うし、一緒にいて楽しいし、何より私は、焦っていました。

付き合い始めたのが26歳くらいだったので、友人たちも結婚したり、子どもを授かったり、自分自身の家族を作り、生活を新たにスタートさせている人ばかりでした。正確に言えば、そういう人たちばかりに気を取られていたんだと思います。

「私も結婚したい。新しく家族を作りたい」そんなことを考えていました。

誰かと結婚したいというよりも、結婚と結婚したかったのかもしれません。

だからこそ、趣味や考え方が合う山となら結婚できるかもしれないと、勝手に淡い期待を抱いてしまっていたのです。

それなのに、夢を追いかけたいと言われてしまったら、どうしていいのか分からなくなってしまいました。

勇気を出して聞いてみた夢

しかし、いくら考えても答えは見つからないし、どうしていいかも分からないまま、交際はそのまま続けていました。

付き合って半年が経ったある日、私は山に夢の話を切り出してみることにしました。

「ねえ、前に言ってた夢の話なんだけど、本気で考えてるの?」

「うーん、正直分からないんだよね。納言と一緒にいたいって気持ちもあるし、夢を叶えたいって気持ちもある。だから、納言さえ良ければ山に一緒に来てくれたら、一番嬉しいんだけど」と。

普通なら「山に行けない」と思うところを、盲目モード全開だった私は「一緒に行っていいの?私のこと好きって思ってくれてる!愛されてるんだ!」と変な解釈をしてしまい、「山と一緒にいたい!」と気がついたら言っていました。

山はものすごく嬉しそうに「本当に?夢を一緒に叶えてくれるの?」と、私の手を握りながら、涙ぐんでいました。

交際期間中で、一番ドラマチックで燃え上がっていた時期だったでしょう。

すれ違っていく価値観

話はどんどん大きな方向へ進んでいきました。

どこの山に住むのか、どんな生活をこれからしていくのか、本格的な山籠りは、何年後を目安に動いていくかなど、話し合っていきました。

正直に言えば、山に籠ることよりも「彼と一緒になって、結婚ができる」ことに、舞い上がってしまっていました。

数少ない仲のいい友人たちにも、「私、山の住んでいる所に行くかもしれない」と圧倒的に先走ったことを口にしていました。

しかし友人たちは、みんな口を揃えて「本当に大丈夫?ちゃんと話し合ってる?どこの山に住むの?」と心配していました。

あまりにも心配されたので、一度聞いてみようと次のデートで具体的な話をすることにしました。

「ねえ、山に籠るってどこの山にするの?」

「まだ決めてないけど、目星はつけてるんだよね」

「一緒に住むってことはさ、結婚することになるのかな・・・?」

「そうだね。山での生活にはなるけど自給自足で暮らせるし、狩猟免許持ってるから、里に降りることもそんなにないと思う。後々野菜とかも一緒に育てていこうよ。楽しいよ」

私は完全に甘く考えていたのです。

まさか、狩猟免許を取得しているなんて考えていなかったし、山といっても山奥だとは思っていませんでした。彼は完全に俗世を離れて、仙人のような暮らしをする気満々だったのです。

私は地元を離れて、彼と一緒に山籠りをする勇気も、全て自給自足での生活をすることにも、とても不安を感じ、どんどん未来が見えなくなっていきました。

そうなると、些細なことで喧嘩をするようになり、関係が徐々に悪くなっていきました。

喧嘩をする度に「やっぱり俺一人で山に籠るわ!」と、脅しのように使われることも増えていきました。私は私で別れたら、もう二度と恋愛ができないかもしれないと不安に駆られて「ごめんね、一緒にいられる方法を考えよう」と言うことしかできませんでした。

まさに、堂々巡りのやりとりは別れるまで続いたのです。

一年記念日の悲劇

自分の生活を捨ててまで、彼の夢を一緒に追いかける勇気が出ないけれど、ずっと一緒にいたい気持ちは、変わることはありませんでした。

喧嘩も多かったけれど、それでも二人でいる時間は幸せだと感じていました。

すると、ある時から「この先もずっと納言といたいな。そろそろ俺も結婚を考えんとな」なんて言うようになり、余計に山と一緒にいたい気持ちは、加速していきました。

山は私よりも、5個以上も離れていたので結婚を意識している気持ちは、本物だと完全に信じていました。

会話の中で子ども欲しいねとか、結婚したらどんな生活をしたいかも具体的に話すようになり、現実味を帯び始めたことにさらに舞い上がってしまっていたのです。

しかし、お別れは突然やってくるのです。

それは一年記念日での旅行帰りに起きました。

行き帰りを私が運転しており、疲れも少し溜まっていた時に、山も些細な一言に反論をしたところから、お互いにどんどんヒートアップしていきました。

すると、「俺やっぱり恋愛向いてないわ!もう、別れよ。縁がなかったんだよ。俺たち。自由に生きたいのに、恋愛してたら自由になれない」と言われ、私は悲しくなって無言になっていました。

「俺はね、やっぱり山に籠って一人で生きていきたい。納言だって来るの大変でしょ?結婚しても苦労するだけだよ。もう、別れた方がいいって」

「えっ、あれだけ沢山話し合ってきたのに?結婚しようって言ってくれてたのに?子どもの話だってしたじゃん」

「山に住むなら正直子どもは、いらんかな。お金かかるし居なくていいかなって。納言は大好きだけど、俺は結婚向いてないから・・・」

沢山話し合ってきたことも、今までの積み重ねも全て無駄になってしまったことに、怒りと悲しみが合わさり、それでも最後の勇気を振り絞って山に聞いたのです。

山と私、どっちを選ぶの?と。

すると、少しの間沈黙が流れ「山・・・かな」と答えました。

一年記念日をお祝いするはずの旅行が、お別れ旅行となってしまったのです。

最後に

結局私は、山に籠ることもなくそのまま地元に残ることになりました。

付き合っている間、もしかしたら私は都合のいい女になっていただけだったのかもしれません。

家に来てくれるし、デート代もかからないし。

ことあるごとに夢の話をされて、時には「友だちに、彼女と別れて夢を追いかけろよ」と背中を押されたんだと言われたこともありました。

約3時間かけて行っていても、「ありがとう」と言われたことは、最初の3ヶ月だけ。家に着くまで心配して待っててくれたのも、初めだけ。

もしも、あのまま山に籠ったとしても、誰も知らない場所での自給自足の生活は、地獄のような生活になっていたでしょう。

今となっては、一緒についていかなくてよかったと心の底から思っています。

この話には、ほんの少しだけ続きがあって、別れた後、一度だけ電話をしたことがありました。

それは「もしも、彼氏ができたら教えて欲しい。納言の幸せを一番願っているのは、俺だから」という言葉を信じていた馬鹿な私は、律儀に山に彼氏が出来た報告をすることにしました。

すると「本当によかった。おめでとう。これからも、ずっと幸せを願っているから」と言いながら電話越しに泣かれ、つられた私も一緒に泣くというカオスな状況で、完全に終わりを迎えました。

風の噂では、山は未だに山には籠っていないそうです。

〜完〜

最後まで読んでくださり、本当にありがとうございました。ぜひ、感想をコメント欄に書いていただけると励みになります。また、引き続き相談等も受け付けています!今後も「元彼ダメンズシリーズ」を定期的にあげていきたいと思いますので、ぜひ、読んでください。

 

 

 

 

 

 

ナイーブな私に勇気をください

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