2022年6月3日に行われた名古屋レインボープライドに初めて参加し、そこで私の人生を大きく変える人、ドラァグクイーンのライラ・グレイルさんと出会いました。
直接お話をしたわけではないけれど、パフォーマーとしての表情と、裏方で周りをアシストする姿、そしてライラさんの雰囲気に圧倒されてしまいました。
来場者の多くは、きっとLGBTQ+当事者の方だったと思うのですが、当事者ではない方も、イベントの中で「すごく楽しかったね。多様性が認められつつあるっていいよね」と話している声も聞こえてきました。
会場ではライラさんを始め、多くの方々が「もっと自由に表現できる社会になるように」と、当事者やそうでない方にも寄り添いながら接していたので、来場者の方々が心から安心して楽しめたのだと思います。
イベントが終わり、帰宅している途中、私はライラさんのことをもっと知りたい、どんな人なのか直接会って話をしたいと想いを募らせ、InstagramのDMから連絡をしました。
「ぜひ取材をさせてもらいたい」そう伝えて・・・。
すると「ライラで良ければ、ぜひ協力させてください」とまさかの返答をいただき、今回の取材が実現したのです。
ありのままの自分を受け入れて
私自身、LGBTQ+の当事者であることを自認したのは、数ヶ月前でした。物心ついた時から、女性らしく変化していく体に違和感を覚えていましたが、誰にも言えずに、ただひた隠しにしていました。
時には「もっと女性らしい服装をしなよ」と言われたり「女性はこうあるべきだ」と押し付けられることにも違和感を感じていました。
性の間で揺らいでいたけれど、恋愛対象が異性だった私は、LGBTQ+の中にも入ることが出来ないと考えていました。けれども夫に出会い、少しずつ考え方は変わっていくようになったのです。
彼は付き合った頃に「僕はパンセクシャル(全性愛者)なんだ」と教えてくれました。そして「誰を好きになっても、どんな服装をしてもいいんだよ。もっと自由に自分自身を持つことが大切だと思うから」と言ってくれたのです。
その言葉がきっかけとなり、自分と向き合い始め、LGBTQ+の中でのQ(クエスチョニング・クイア)と認識するようになりました。
そんな中で、名古屋レインボープライドが開催されることを知り、何か変わるかもしれない、新しい自分に出会えるかもしれないと希望を抱き、参加を決意したのです。
初めはドキドキしながら会場へ向かったのですが、その場にいた人たちが笑顔で話しかけてくれて、それぞれに悩みを抱えていても「今あるこの時間を大切にしていこう」という姿勢に、自然とイベント全体の雰囲気の中に溶け込むことが出来ました。
そして1番心を惹かれたのが、ライラさんの司会の中で「大勢の方が来てくれて、こうして楽しんでくれているのが本当に嬉しい」と話していましたが、誰よりも楽しんでいたのがライラさんのような気がして、純粋にとても素敵な時間だなと思いました。
そして私自身、イベントに参加したことでようやく「私は私のままでいいんだ。性別にとらわれない生き方をしていこう」と決意した日でもありました。
人生がひっくり返ったかのように、今までの弱気な私とも決別をし、すぐさまライラさんに連絡をとり、夢の取材へと進むことが出来たのです。
それぞれの表情を着こなして
取材の日にちを決めてから、ライラさんがどのような活動をしているのかを見るようになっていきました。
ドラァグクイーンとしてパフォーマンスをしたり、バンジージャンプに挑戦したり、木下大サーカスで空中ブランコに出演するために猛特訓をしている姿もあり、マルチに活動していることを知りました。
しかし、私はあることに気づくのです。
どの姿も楽しみながら取り組んでいるけれど、見え方が全然違うことに。子どものような無邪気な笑顔を見せることもあれば、1人のパフォーマーとしてプライドと強い信念を持ち、堂々としている表情の時もある。
どれも同じ人がやっていることなのに、全く違う見え方をしていることに私は気づいたのです。服やメイクを場所に合わせて変えるように、表情そのものを着こなしているようにも見えました。
そこに更なる魅力を感じると同時に、心の中をのぞいてみたいと思ったのです。
ライラさんの素顔の部分を・・・。
素顔に触れて
当日、私は夫と2人でライラさんが運営している事務所へと向かいました。
しかし、本格的な取材が初めてだったこともあり、感じたことのない緊張感を抱いていました。
少し早めに着いてしまったこともあり、事務所の中で待たせてもらうことになりました。そこにはドラァグクイーンやLGBTQ+に関する書籍やDVDがたくさん並べられていました。
「これはすごい蔵書やDVDだね。これだけ集めるなんて大変だよ。本当に大切な核になる部分なんだね」と夫は嬉しそうに話していました。
「ごめんなさい!お待たせしました」とドア側から聞こえる声の方を向くと、そこにはライラさんが立っていました。
優しい笑顔と言葉に、私の肩の力はスゥ〜と抜けていくようでした。
自己紹介をしている時、無意識かもしれないけれど、ライラさんは優しく微笑みながら私の目を見て話を聞いてくださいました。
緊張していたのを察してくれたのか、私が話しやすいように丁寧に言葉を選びながら、質問に答えてくれました。
そして、ある質問の中で私は、ライラさんの素顔に少し触れることが出来たのです。
ドラァグクイーンとその過去
ドラァグクイーンとして、見ている人の心を虜にし、その世界へと引き込んでいく。それが今のライラさんの1番の姿だと思い、そして私が聞きたかった質問の1つである、「どうしてドラァグクイーンを目指したのか」について尋ねました。
ライラさんは少し考えて、静かに答え始めたのです。
「実は私、女装が好きじゃなかったんです。というよりも、女装というものを側から見ているのが苦手だったんです」と。
想像と違った答えに、私も夫も驚きを隠せませんでした。
すると続けて、「当時はまだドラァグクイーンの存在もあまり知らなくて、テレビとかでは観たことがあったけれど、中途半端に真似をしている人がいたり、誇張をされているのを見ていて苦手意識があったのかもしれません。でも、21歳の時に初めて本物のドラァグクイーンのパフォーマンスを生で見て、『なんて素敵なんだ・・・。プロとしてプライドを持っていてカッコいい』と思ったんです。それから自分もドラァグクイーンの道に進んで、初めて拍手をもらった時の感動が忘れられなくて、今もこうしてステージに立ち続けているんです」と、その理由と背景を知り、ライラさんの1番の核となる部分を知ることが出来たような気がしました。
ただ苦手だったり嫌いだったりしたわけではなく、心ない真似や誇張により、蔑まれているように感じていたことに、悲しさを覚えているように思いました。
だからこそ、今自分自身がドラァグクイーンとして活動している中で、信念とプライドを持ち、ステージに立ち続けているのでしょう。
新たな出会いと変わりゆく視野
しかし、ドラァグクイーンを始めたばかりの頃のライラさんは、「自分が1番輝いているし、自分のことばかりで、若かったから尖っていました」と少し照れながら話してくれました。
その中でNPO法人ASTAさんとの出会いが、違った視点を与えてくれるきっかけとなったそうです。
その活動内容は、教育現場を中心に出張授業を行い、性的マイノリティについての教育を実施しているそうです。実際にライラさんもその取り組みに参加された時、当事者の方と話したり、他のセクシャリティの方とも話すことで、今までの考え方も大きく変わるきっかけとなったそうです。
「今までは自分の知識の中だけで考えていたけれど、色々な考え方を持った人と話したり、聞いたりすることで、視野が広くなり、もっと深く考えられるようになったんです」と。
私自身も現役保育士だった頃に、性的マイノリティを身近に感じたり、子どもたちの中でも性の揺れ動きを感じる部分がありました。
好きな色や遊びも性別に関係なく好みが分かれることがあります。けれども昔ながらの考え方はそう簡単に変わることはなく、女の子だから、男の子だからと決めつけるような発言をしている人もいました。
そして保育士=女性というイメージも強く、私のようにLGBTQ+の当事者だとしても、それを口に出すことや、性別にとらわれない行動をすることは、きっと認めてもらうことは難しいのではないでしょうか。
そういった意味でも、ライラさん自身が考えるきっかけになったNPO法人ASTAさんの教育現場で直接対話をするという活動には、とても深く感銘を受けました。
子どもたちが、性別にとらわれずに差別なく過ごせる環境が当たり前になるように。
そしてその周りにいる大人たちも、知る機会になるように。
最後に
約1時間の取材の中で、ライラさんのパーソナルな部分に触れながら、新たな一面を知る機会となりました。
そして無名である私に対して、とても丁寧で1人の人として話を聞こうとしてくださる姿に、感謝しかありません。
名古屋レインボープライドに参加した時に、誰もが笑顔になれる場所を肌で感じることが出来たあの日のことを、ライラさん自身に取材の中で伝えると、「“楽しい”を色々な人と共有したいんです。そして、差別や区別なく、みんながハッピーになれたら1番嬉しいから」と言っていた言葉が全てだと思います。
つい最近、LGBT理解増進法案が可決され、ニュースなどでも取り上げられていました。全ての人がどう考えているかは分かりませんが、性的マイノリティの中で生きづらさを感じている人たちがいます。
誰かを傷つけたいとか、私たちの想いを理解してと押し付けたいわけではありません。
ただ恋愛対象が同性だったとしても、それも一つの愛の形だから。
好きな人と結ばれたい。
性別にとらわれずに生きていきたい、ただそれだけなんです。
長い歴史の中で、性的マイノリティにいる人たちが今よりもひどい差別を受けてきたことがありました。本当の心の部分を知ろうとせずに、見た目だけで判断されたこともあったでしょう。
けれども誰を愛し、どう生きるのかは、その人自身の自由なのではないでしょうか。
ライラさんと話すことで、少なくとも私自身は自由に生き、そして性別にとらわれずに私という存在を大切にしようと思うことが出来たのです。
そして最後に、ライラさんが言ってくださった言葉を綴り、終わりたいと思います。
今を楽しみ、常に人生にトキメキを持ち続けていたいんです。
大変なこともあるけれど、私はドラァグクイーンとして、ステージの上でパフォーマーとして最期の時まで輝き続けたい。
それが私の人生だから。
〜宣伝〜
ライラさんはSNSを通して、見た人が笑顔になれる写真や動画を積極的に発信されています。
ドラァグクイーンならではのメイクや衣装に魅了されながら、ライラさん自ら体を張った企画にも挑戦されています。
個人的には、木下大サーカスでチャレンジされていた空中ブランコの動画では、失敗を恐れず最後までチャレンジし続ける姿に、勇気をもらいました。
大人になればなるほど、目の前にあることを全力で楽しむ大切さを忘れてしまいそうになる、そんな心を取り戻してくれるのが、ライラさんの最大の魅力です。
来年度開催予定の名古屋レインボープライドを心待ちにしながら、これからもLGBTQ+について私なりの言葉で書き続けていきたいと思います。
ナイーブな私に勇気をください