根に持つことをやめないで

保育士時代の体験談・過去のトラウマ

「根に持つことは悪いこと」そんなことを昔から肌で感じていました。

嫌な思いをしたこと、心に残り続けた記憶も口にすれば「まだあの時のこと根に持ってるの?」と言われてしまう。

その度に、どうして根に持つ事はいけないことなんだろうかと、一瞬立ち止まって考えてしまうんです。

自分の中で許されないボーダーラインがあって、それを超えられた時、ワタシには根に持つ感情が生まれる。でもそれは本当に悪いことなんだろうかと、何度も自問自答してきました。

どうして嫌なことをされたのに、忘れなければいけないのか。

どうして悲しい思いをさせられたのに、許すことが当たり前になっているのか。

それが理解できなかったんです。

「根に持つことは悪いこと」この言葉が、随分とワタシの心に影を落とし続けていました。

止まらない負の感情

ワタシは昔から考えすぎてしまう性格のせいで、時折、頭の中が散らかり放題になることがあります。

嫌なことをされた時には、その映像が何度もフラッシュバックして、気持ちがぶり返してくる。

悲しいことがあった時も同じように、何度も何度もその映像が繰り返されながら、落ち込んだり、傷ついたりしながら、必死で解決をしようとするんです。

どうしてこんな思いをさせられたんだろう。

どうして嫌なことを言われたんだろう。

もっと違う方法はなかったのかな。

もっと違う伝え方はなかったのかな。

そうやって角度を変えて、見方も変えて、色々な方法を試すように何度も何度も自問自答しながら答えを探してきました。

結論が出た時に、「やっぱり、あの言い方は違っていたはず」と納得すると、今度は怒りが沸々と湧き上がり、いつしかそれが根に持つことへと変化していきました。

けれどもその感情が悪いことだとは、今も思っていません。

それはきっと、ぐるぐる考えた結果、新たに見えた景色があるからなんです。

葛藤する気持ち

根に持つとき、ワタシはいつも思うことがあります。

「この先、似たような場面に遭遇したら、同じような言葉は言わないで、もっと違う伝え方をワタシはしよう」と。

それは沢山嫌な感情と向き合わなければ、その結論にはならないとも思うんです。

もしも、嫌なことを言われた時に、全てを受け流してしまったら、何も感じないように心のシャッターを閉じてしまったら、他の人に同じことをしてしまうかもしれない。

それが何よりも怖いことだと思っています。

あの時された気持ちを忘れて、何事もなく振る舞っていたら、知らないところでワタシも同じように振る舞ってしまうかもしれない。

そしてそんな人たちを、嫌というほど見てきました。

少し立ち止まって考えた先には、きっと違う視点だってあったはずなのに、感情のまま自分の思いをぶつけて相手を傷つける。その連鎖はどんどん数珠繋ぎになって、繰り返されることを何度も経験してきました。

けれども当の本人は、自分の間違いに気づけていないんです。

それは過去にされたことも根に持つことをせず、自分が一体どんな思いをしたのかも忘れてしまったからだとも感じました。

忘れることも受け流すことも大切だけれど、大切な気持ちを踏みにじられた気持ちは忘れてはいけない。

嫌な思いをした感情を見逃してはいけない。

そんな風に思うようになったのは、きっと小学生の頃からだったような気がします。

小さな体で

昔からよく頭の中で難しく考える癖みたいなものがありました。

言われたことを真正面から受け止めて、誰にも言えない気持ちを抱えながら、何度も自問自答を繰り返していたんです。

うまく説明できない感情は、行き場のない怒りとなって、そして心の奥底へと落とし込んでいく。それがきっと根に持つに繋がっていったような気がします。

友だちはいなかったけれど、それでもワタシは「絶対に同じようなことはしない。こんな悲しい気持ちを相手にはさせちゃダメだ」と考えるようになりました。

そしていつしか、今まで言われてきたことやされてきたことを思い出しながら、言葉を発するようになっていったんです。

そんな性格を知っていた昔の同僚や先輩は、「ちょっと考えすぎだよ」とか「いつまで引きずってるの?笑」なんて言うこともありました。

でも不思議なんです。

どうして嬉しいことは覚えているのに、嫌なことは忘れなければいけないのか。

根に持つことや負の感情は、そんなに悪いものなのだろうか。

それも理解に苦しむ部分でもありました。

きっと、負の感情だって必要なはずだと。

何か大切なことを教えてくれる気持ちだからこそ、忘れちゃいけないような気がする、そう思っていました。

子どもたちに伝えて

ワタシは担任をしていた時、よく子どもたちに伝えていた言葉があります。

「嬉しい気持ちも、悲しい気持ちも、どっちも大切な気持ちなんだよ。その時に感じた気持ちは、大きくなっても忘れないでね」と。

喧嘩をした時、子どもたちは本気でぶつかるからこそ涙を見せたり、感情をむき出しにして怒ったりもします。

そんな時は、その気持ちをまっすぐ受け止めながら、今の心の中がどうなっているのかを聞いていきました。

どんな気持ちで、どんな風に思ったのか。

泣いている理由や、怒っている理由もできる限り聞いていました。

そして話していくうちに、子どもたちは気づいてくれるんです。

どうして今怒っていたのか、どうして涙が出たのか。

そうやって一緒に負の感情と向き合うのが、保育の一つのテーマでもありました。

根に持つことは・・・

今でも過去のことに対して、いくつも根に持っていることがあります。

幼い頃から数えたら忘れてしまったものもあるけれど、それでも心の中に深く残った傷跡が癒えないものも沢山あるんです。

そしてふとした瞬間に、その時のことを振り返り、自分が当時はどういう気持ちだったのか、そして大人になったワタシはどう思うのかを自問自答しています。

ある時は、今まで根に持っていたことが煙のようにふぅ〜と上へと抜けていく感覚になる瞬間もありました。

またある時は、当時よりも怒りが増してきて、モヤモヤしてしまう事もあります。

でもどんな感情になったとしてもやっぱり最後に思うことは、「同じ思いを他の人にはさせないように気をつけよう」になるんです。

されたことを忘れてしまったら、きっと知らないうちに同じようなことをしてしまう可能性がある。

そんな事は絶対したくない。

だからこそ根に持つ事で、自分の立場や相手の立場になって考える必要があるのかもしれません。

ワタシはとても不器用な性格だから、中々教訓だけを思い留まらせることが出来ないんです。

一つひとつ思い出しながら、ゆっくり咀嚼をしながらでないと、大切なことさえも忘れてしまうこともある。

だからこそ、どれだけ古い記憶でも鮮明に思い出し、考えようとするのかもしれません。

本当の優しさとは

このエッセイを書く少し前、夫と二人で根に持つことについて話をしたことがありました。

「どうして納言ちゃんは、根に持つことにこだわるの?」と聞かれたことが発端でした。

その時に話したことがきっかけで、「そのテーマでエッセイを書いてほしい」と言われたんです。

「根に持つ事はいけない事だと思われがちだけど、きっとその分、嫌なことと向き合って沢山考えた証拠なのかもね。きっとその感情を忘れてしまったら、嫌な連鎖は続いてしまうことだってある。確かに忘れていいこともあるけど、当時の経験を振り返りながら、いろんな立場に立って考えることが大切なんだろうね」と言ってくれました。

この話になるまで、ワタシ自身も根に持つことに対して少しネガティブに考えていたところもあったんです。

もっと簡単に忘れられたらいいのかな。

嫌なことなんていつまでも引きずる必要なんて、本当はないのかもしれないな。

そうやって思っていました。

けれども今では、根に持つことも悪くはないと思っています。

根に持ち、恨んで、相手を傷つけることは絶対にしてはいけません。

けれども、根底にある当時の想いを振り返り、自分の中で消化しようとする作業は、大切なことだと思うのです。

自分の負の感情や出来事と向き合った分だけ、悲しみから優しさを学び、辛さから寄り添う大切さを知ることができるような気がします。

この先の人生も、良いことばかりではなく、負の感情と向き合わなければいけない時が出てくるでしょう。

過去の自分と今の自分を重ねながら考えることもあるかもしれない。

そんな時は少し立ち止まって、向き合ってみようと思います。

忘れてしまわないように、根に持つことにほんの少しだけ誇りを持って…。

 

 

 

ナイーブな私に勇気をください

  1. モト より:

    根にもつことは悪いことじゃないと思うし、誰しもあることだと思う。
    痛みに強くなる必要もないし、慣れる必要もないよね。
    だから弱い人間のままで良いと思うのね。
    強くなることは痛みに鈍感になるから、人の痛みが分からなくなるからっていかりや長介さんが言ってた。
    ただ根にもつ自分を本当に受け入れた時に、初めて考え方や視野がもっと広がってくると思うの。
    忘れろとは言わないよ、ただ違う引き出しに入れて鍵をかけて置いておくようにしても良いんじゃないかなと思う。

    全ての起きてることはただの事象であって、それを受け入れるか受け入れないかは自分次第かなって思う。

    偉そうに語ってごめんね

    • オリエンタル納言 オリエンタル納言 より:

      いつも読んでくださりありがとうございます。
      「根に持つこと」はとてもネガティブなイメージで、ワタシ自身も随分と悩み、考え続けてきたテーマでした。小さなことでも心の中に留めておくことはいけないことなんだろうとかと責めたこともありました。けれども言われた直後から、時間をかけて向き合っていくことで少しずつ心にも変化が見られることを、この数十年で気づくことができたんですよね。
      「根に持つこと」がいけないことではなく、そのエネルギーをどのように出すかが一番大切なことのように感じます。
      怒りや悲しみという負の感情の中で、「同じような思いを相手にはさせてはいけない」そう思えることで、「根に持つこと」が一つの学びになるんじゃないかなと思いました。
      身近すぎる故に、とても難しいテーマでしたが、ワタシ自身このエッセイを書くことによって、また新たな視点を見つけることができたような気がします。

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