ずっと隠してきた気持ちがありました。
誰にも言えずに、沸々と湧き出てくる想いをグッと堪えていた時期が。
誰かを見ては、何かと比べて自分自身を哀れに思っていたんです。
運動できる子が羨ましかった。
勉強ができる子が羨ましかった。
端正な顔立ちの子が羨ましかった。
常に誰かの会話の中に存在している人たちが、とてつもなく羨ましくて仕方がなかった。
そんな気持ちに気づかないように、ただ同じ空間の中で1日を過ごすようにしていたんです。
バレてしまったら、自分がとても小さい人間ということが知られてしまう。
他の人は、そんなことも気にせずに毎日をのびのびと暮らしているはずなのにと・・・。
今の今まで、どこかしらにあった嫉妬の心は、いつまでも消えることなく、まとわりついていたのです。
同級生のあの子
小学生の頃、漢字が全く同じで読み方が違う同級生の子がいました。
とても明るくて、可愛くて、クラスの人気者だったあの子。
反対にワタシは、漢字が同じというだけで、彼女が持っているものを何一つ持っていませんでした。
スポーツが出来るわけでもないし、容姿が端麗だったわけでもなく、クラスの端っこにいて、同級したちを羨ましく眺めているだけの人でした。
同じ人であり、名前の漢字が同じだったのにどうしてこうも違うんだろうと、疑問と同時に小さな嫉妬心が芽生えたのを覚えています。
どうしようも出来ないことなのに、それがとても悲しく思えていました。
その時初めて抱いたのかもしれません。
人は、生まれた時から平等じゃないんだって。
それでも初めの頃は、みんなに振り向いてほしくて、話しかけてほしくて、試行錯誤しながら同級生の中輪の中へと入ろうとしていました。
しかし全て逆効果で終わり、どんどん孤立していったのです。
いつしか彼らの輪の中に入ることを諦めて、一人で生きていくという選択肢を選ぶようになりました。
小さな社会の中ほど、残酷なものはないのだと痛感した時期でもありました。
青くない春
中学、高校ともなれば、少しずつ大人のように振る舞うことに憧れて、少し背伸びをするようになっていく同級生たちを見かけるようになりました。
青春を味わうかのように恋をしたり、ヤンチャをしたりしながら自分の存在価値を確かめていくような人たちも増えていきました。
学校帰りに彼氏と歩いて下校する姿を見て、羨ましいと思いました。
友人たちと恋バナをしたり、大人びたことをして優越感に浸るように、話に花を咲かせている人もいました。
ワタシはそのどれにも当てはまらなかったんです。
群からはぐれてしまったワタシは、好奇の目にさらされているようでした。
グループを作る時や、修学旅行でも「あの子はかわいそうだから、入れてあげて」と担任がボソッと言って、渋々輪の中へ放り込まれたこともありました。
仲間に入れてもらった代償として、修学旅行中には楽しげな雰囲気に入ることもできずに、そっと遠くからその姿を眺めることしかできませんでした。
そしてまた、沸々と湧いて出てきてしまったのです。
どうしてワタシは今、こんなに惨めな想いをしているんだろうって。
修学旅行から帰ってきたワタシをさらに惨めにさせたのは、一枚に写真でした。
そこには、仲の良さそうな雰囲気をしながら笑顔で映る同級生と、その隅っこでピースをしながら作り笑顔で映るワタシ。
対照的な姿を見た時の気持ちは、心の傷として今でも残り続けています。
一つ、また一つと経験を重ねるたびに、嫉妬の心は芽生えていく。
そして同時に、哀れさと惨めさを体験していく。
その繰り返しだったんです。
思春期に青春を味わった記憶は、これっぽっちもありません。
恋をして、胸がときめいて、友人たちとの思い出が記憶を潤わせていく。そんな経験をしたことも、もちろんありません。
常にどこかで思っていたんです。
ワタシの人生は、どこで間違えてしまったんだろうって。
どうして、ただ平凡に楽しいを味わうことができないんだろうって。
青い春と呼ばれている青春は、あの頃のワタシと無縁の存在だったから。
大人になれば
それでも微かな希望は抱いていたんです。
大人になれば、見た目とか能力とかで判断されることもなく、一人の人間としてみてもらえるはずだって。
きっと子どもの世界なんかよりも、優しくて穏やかな日々がやってくるはずだって。
そう信じていたから、希望を捨てずに大人になれる日を待ち焦がれていました。
今までできなかったことを、思い切りやってみよう。
今まで味わえなかった経験を沢山味わってみよう。
そして、普通というものを手に入れることができたなら、きっとこの気持ちも晴れていくはずだと・・・。
けれども大人の世界の方が、もっと嫉妬の心が芽生える機会が多いことに気づいたんです。
昔よりもSNSというものが発達してから、簡単に色々な人の生活が見られるようになっていきました。
自分とはまるで違う世界を生きているように、切り取られたら一枚に幸せが常に転がっていたんです。
恋人と幸せそうに映っているところも、仕事や趣味に没頭しているところも、人生そのものを楽しんでいる姿は、やっぱりワタシとは違って見えていました。
保育士をしている頃、仕事にやりがいを持っていたはずだった。
けれども、それは健康も心も壊しながらがむしゃらにやり続けていたからでした。
それでも子どもたちが可愛くて仕方がなかった。
曇りのない笑顔でワタシを見つめてくれる姿に、随分と助けられていました。
どれだけ私生活が荒れ果てていても、どれだけ心が疲れ始めていても、子どもたちといればどんな辛いことも耐えられる気がした。
けれどもやっぱり、色々と限界を迎えながら走り続けた先に何もないと知った時、歩むべき道を見失い、気力さえもなくしてしまいました。
SNSの中では、沢山の幸せが溢れている。
そんな幸せを手に出来ずに生きていることが、情けなくなってしまったんです。
ある時から、SNSを全く見なくなりました。
そして大切な友人たちの連絡先を消して、SNS自体も消しました。
これ以上嫉妬の海に溺れてしまわないように。
そして、誰に対しても快く思えない気持ちが芽生えていることが、何よりきつかったんだと思います。
小さい頃から抱え続けた嫉妬の心は、大人になっても付き纏い続けて、とうとう周りが見えなくなってしまうほどの影響力を持ち始めてしまったのです。
全ての縁を切るように、関わりを遮断してしまったのです。
変わりゆく心、そして嫉妬心
あれから随分と月日は流れ、ワタシは今また、SNSを再開しました。
嫉妬心がなくなったかといえば、そうではありません。
塞ぎ込んでいた頃は、昔と同じ感情が芽生えて向き合うことに随分と苦労しました。
こんな自分が嫌だと言い続ければ続けるほど、心は傷つき続けるだけでした。
だから、受け止めることにしたんです。
嫉妬する気持ちも、とても大切な感情なんだって。
誰だって羨ましいと思う時もあるし、時には憧れて誰かになりたいと強く願う瞬間もある。けれども、憧れた姿になれないことに気づいた時には悲観的になり、落ち込むことだってあるんだと。
今までの人生を振り返ると、どれだけ辛くても優しい言葉をかけてくれたのは、他人ではなく自分自身でした。
色々な感情が芽生えたとしても、葛藤しながら最後には受け入れるのは、自分自身だったのです。
ある時からワタシは、言ってほしい言葉を自分に向けるようになりました。
だから嫉妬の心が芽生えた時には、こう言っているんです。
「あなたは気づいていないかもしれないけれど、あなたにしか出来ないことがあるんだよ。とことん比べて、悲観することだってあると思う。でもね、きっといつか気づくはずだから。あなたにしか出来ない『何か』があることを」
そうやって時には受け入れて、励ましながら自分の心と向き合い続けているんだと思います。
嫉妬の心がなくなることは、この先もありません。
でもそれでもいいと思えるようになってきていることを、少しだけ誇りに思えるようになりました。
きっとワタシ以外に、同じ想いを感じている人がいっぱいるはずだから。
それを隠しているだけで、嫉妬の心は誰にでも芽生えるものだと思うのです。
ただその感情をどのように出すのかが大切なんだと思います。
ただ「悔しい」と言って、何もせずに文句だけを言い続けることだってできる。
けれども嫉妬の心が芽生えた先に、何ができるのかを考えられた時、人は新たな感情と出会えるような気がするんです。
学びと気づきという感情に。
ワタシは嫉妬をしてきた中で、多くのことを学びました。
どれだけ羨んでも、その人自身になろうとしても、その人の人生を歩むことはできないということを。
そして気づいていないだけで、ワタシにも彼らにできなかったことができる才能があることを知れたから。
ワタシはこの先も、嫉妬の心を抱くことがあるでしょう。
そして時には、落ち込んだり、悩んだりするかも知れない。
けれども、それでいいんだと受け入れることにしたんです。
嫉妬をすることで、相手を深く見ようとすることを学んだから。そしてその先には、きっと新たな『何か』が待っていることも、理解できるようになったから。
もしも、嫉妬の心が芽生えた時にはとことん向き合ってみてください。
決して、知らんぷりなんてしないでほしんです。
どんな感情も、全て意味があるものだから。
そして、これだけは忘れないでほしい。
嫉妬心を抱いた相手でも出来ない『何か』をあなたは、きっと持っているはずだということを。
その不透明なものが、くっきりと輪郭をとらえながら形になっていくきっかけが、もしかすると嫉妬の心から生まれるかも知れないということも。
あなたの嫉妬の心は、いつ、どんな時に芽生えますか?
そしてその気持ちを、大切にすることはできていますか?
あなたの心を、あなた自身で受け止めてながら・・・。
ナイーブな私に勇気をください