ワタシの祖父は、一昨年の夏に顔を合わせることもなく亡くなってしまいました。
世の中がコロナで疲弊し、パニックに陥っている時、遠く離れた石川県に行くことが出来ませんでした。
そうして「行けない、行けない」を繰り返しているうちに、あっという間に2年という歳月は流れ、とうとう会うことなく別れを告げる形となってしまったのです。
あの時は、心の底から後悔しました。
どうしてもっと電話をかけてあげなかったんだろう。
どうしてもっと色々な方法を考えて、会いに行くことを選ばなかったんだろう。
そう思った時にはすでに遅く、取り返しのつかない事実だけがその場に存在していました。
祖父は83歳でした。
持病はあったけれど、突然亡くなってしまうものではありませんでした。
熱中症とコロナの検査の合間に、処置が遅れて亡くなったのです。
悔やんでも悔やんで・・・、悔やみきれなかった。
新たな出会い、そして困難へ
一年、二年と月日が流れていく中で、悲しみは思い出に移り変わり、悔やみきれなかった気持ちは、少しずつ薄らいでいきました。
そしてワタシも彼と出会い、一番結婚と縁遠かった人間が、家庭というものの中に入ることを選択したのです。
新たな家族と共に。
けれども保育士を辞めて以降、結婚式があったり、体調が悪化したり、夫婦揃ってコロナにかかったりとロクなことがありませんでした。
体力的にも、金銭的にも、新婚旅行に行く余裕はなく、とうとう私たちは新婚旅行を諦める形となったのです。
フィリピンのおばあちゃん
彼は日本とフィリピンのハーフであり、大の仲良しだった祖母はフィリピンに住んでいます。
過去の写真を見せてもらった時には、二人共が頬を寄せ合って、笑顔を向けながら画面に収まっているものが沢山ありました。
誰が見ても仲良しだと分かるくらい、尊重し、心の底から愛しているのだと伝わってきました。
しかし海外ということもあり、簡単に行ける距離ではなく、ましてやコロナが流行してからは行くことが困難になってしまいました。
だから彼と祖母は、もう何年も直接肌を触れ合うことができなくなっていたのです。
それと同時に祖母は、少しずつ記憶が薄れてしまい、彼のことも、実の娘のことも、少しずつ忘れていくようになりました。
写真に写る彼女はとてもハツラツとしていたけれど、近況報告でテレビ電話をしていた時の表情に、あの時の面影はもうありませんでした。
その姿を目の当たりにするたびに、一つ、また一つとため息と悲しみが彼を包み込んでいくようでした。
その頃から生活にゆとりがあるわけじゃないけれど、新婚旅行の計画を立てるようになったのです。
一生に一度のハネムーンを
「ねえ、新婚旅行なんだけど、フィリピンはどうかな?」
「えっ!?フィリピン?どうして?」
「ワタシのおじいちゃんが亡くなったのが、丁度ましゅぴのおばあちゃんと同じ年齢だったの。ワタシが会えたのはもう、亡くなってからだった。すごく悲しくて、どうしようも出来なくて、本当に後悔したんだよね。ましゅぴにはそうなってほしくないから、生きているうちに、もういつどうなるか分からないなら、会いに行こうよ」
「えっ!?僕は嬉しいけど、本当にいいの?」
「もちろん!大切なもう一つの場所でしょ?なら、一緒に連れて行ってよ」
「ありがとう・・・。すごく、すごく嬉しいよ」
彼はこの選択にとても感謝をしてくれました。けれどもワタシは、どこに行きたいという希望もなければ、特に行きたい場所もなかったんです。
行ったことのない国で彼が喜ぶ笑顔が見られるのなら、そう思いフィリピンに行くことを勧めました。
一生に一度の旅行を、長年果たせなかった再会の場として・・・。
フィリピンに行く日まで
新婚旅行の計画は、簡単なものではありませんでした。
喧嘩をしたり、思わぬことでトラブルに見舞われたりもしました。
ここでは書けないようなことなんかも起こったりと、本当にアクシデント続きで相当参ってしまう出来事もありました。
それらをなんとか二人で乗り越えながら、ようやく新婚旅行も目前に迫ってきています。
ただこれは、二人の大切な旅行であると同時に、元気なうちに祖母に会いに行く大きな目的も兼ね備えています。
ワタシが祖父に会った時には、すでに冷たく、寡黙な人がさらに寡黙になった姿でした。
記憶は薄らいではいるけれど、決して忘れることのできない後悔は今でも付き纏っています。
そんな思いは絶対にしてほしくないんです。
人の命はいつか、消えてしまう。
それは避けようのない事実です。
けれども生きている間に直接肌に触れて、言葉を交わすことがどれだけ大切なことかを身をもって知っているからこそ、命がある限り、たとえ記憶が薄らいでいても、言葉を交わしてほしいと思います。
彼は日頃から、ワタシの家族や友人を同じように尊重し、大切にしてくれています。
だからこそ、今度はワタシが同じように尊重し、大切にする番だと思うから。
この旅行が彼にとっても、ワタシにとっても、有意義になることを祈りながら。
ナイーブな私に勇気をください