リクエスト企画「ハロウィンにちなんで」

コラボ企画

今回のリクエストは、ハロウィンにちなんだエッセイを書いていこうと思います。

ワタシ自身、幽霊を見たり、心霊現象を体験したことはありません。

幼い頃は、ちょっぴり不思議なことはあったけれど、そこに恐怖を抱いたこともありませんでした。

ただ今回は心霊現象とはまた違うけれど、少しだけハロウィンにちなんだ話をしていきたいと思います。

それでは、スタートです。

大好きな祖母の別れ

何度かエッセイでも書いている祖母は、膵臓癌で59歳という若さで亡くなりました。

少し変わっていた祖母は、ずっと「年金をもらうのが楽しみなんだ」と言うのが口癖でした。

だから60歳になるのを、本当に待ち望んでいたんです。

色々な楽しみがある中で、きっと彼女の生きる希望の一つが年金だったのかもしれません。

けれども、60歳を目前に祖母はこの世を去りました。

美しく整えていた髪も、綺麗に施されていた化粧もすることなく、一番望んでいなかった姿で、彼女は亡くなりました。

だからせめてもの想いで、祖母の好きだった真っ赤な口紅を塗り、ピンク色に頬を染めてあげたのが、まだ中学一年生だったワタシです。

あの時の光景は、今でも忘れることができないんです。

最期の景色を見渡して

病室のベッドに静かに眠る祖母は、今までの中で一番安らかな顔をしていました。

ふっくらしていた頬は痩せ細り、薬と病院の香りが彼女の周辺を包み込んでいました。

微かに差し込む光は、まるで祖母を迎えに来たかのように温かく、そして柔らかさえ感じました。

あの時口紅を塗っている間、母は泣き崩れ、父は母に寄り添い、そしてそれぞれが祖母を想いながら涙を流していました。

けれどもワタシは泣きませんでした。

もうすでに、別れが訪れることを知っていたから。

別れの第六感

昔から不思議な感覚が、体を襲うことがあります。

それが何なのかを確かめることも、誰かに聞いて答えを知ることもできませんでした。

けれども確かに感じるんです。

おでこの辺りからゾワゾワっと鳥肌が立つような感覚と、妙な不安感に駆られることが。

そして忘れたくても、しばらくの間、脳裏にずっとその人のことが思い出されて、絶望感に近い不安感を感じることがある。

それが別れの合図でした。

そして数ヶ月前に祖母にもその感覚を感じ、ワタシは誰にも見つからないように涙を流しました。

あの時はまだ、祖母が病気を患っていたことを家族も、そして本人自身も知りませんでした。

あの感覚を味わったすぐ、祖母が体調を崩して、病院で検査入院をしたのです。

そして見つかったのが膵臓癌でした。

「あの感覚は、やっぱり本当だったんだ。もうすぐ、ばあちゃんとお別れになる」そう思うと怖くてたまりませんでした。

理由のわからない感覚と、刻一刻と迫る祖母との別れ。

それがとてつもなく恐怖だったんです。

会いたくても・・・

それから数ヶ月後に祖母は亡くなり、ワタシはかけがえのない人を失いました。

どれだけ泣いても、どれだけ会いたいと願っても会うことはできず、「せめて夢でもいいから」そう頼み込んでも、出てくれることはありませんでした。

毎日空に向かって、祖母と交わした二人だけの合言葉を口にしていました。

もしかしたら届くかもしれない、そう思わないと心が折れてしまいそうだったから。

それでも祖母は、ワタシに会いに来ることはなく、日にちばかりが過ぎていき、とうとう49日を迎えようとしていたのです。

部屋の片隅に

49日当日、いつものように学校に行きました。

気持ちは上の空だったけれど、それはもうどうすることも出来ませんでした。

人は命の糸が切れた時、過去の思い出も記憶も、そして大切な人のことも全てないものになってしまうんだと、どこかで気づいていたのかもしれません。

重い足取りの中家に帰ると、仕事が忙しい母が珍しく家にいたのです。

「おかえり!学校どうだった?」

「・・・うん。普通だったよ」

そう言い残して、ワタシはそそくさと階段をあがり部屋へと向かったのです。

扉を開けた瞬間、懐かしい匂いがしました。

それは紛れもなく、祖母の入院中の香りだったのです。

消えゆく香りは

扉の隅っこに微かに香る病室の匂い、それは嫌というほど嗅いできた祖母の香りでした。

苦しそうに治療を行う姿や、日に日に弱っていく姿が一気にフラッシュバックしていきました。

ふと我に返った時、急いで母を呼んだのです。

「母ちゃん!!ばあちゃんが!ばあちゃんがワタシの部屋にいる!!!早くッ!!」そう大声を張り上げて。

大きな声で呼ばれた母は、慌てて部屋に入ってきました。

「・・・。おばあちゃんの匂い、しないね」

「あれっ、さっきまでここでしたんだよ。あの病室の匂いが。本当だよ!!本当なんだよ・・・」

「そっか、納言に会いにきてくれたんだね。お母さんにはまだ一度も会ってくれないんだ・・・」

母はそう呟いて、静かにリビングへと戻っていきました。

とても寂しそうな母の顔を、ワタシはこの先も忘れることはありません。

夢でお別れを

しかし次の日の朝、台所に立つ母の顔は、何か吹っ切れた表情をしていました。

するとワタシの顔を見て、「昨日ね、初めて夢でばあちゃんが会いにきてくれたんだよ。ずっと来てくれなかったのに。もしかしたら、本当に昨日納言の部屋に来てくれたのかもしれないね」と。

その日はちょうど、祖母の49日でした。

10月は祖母の誕生日でもあります。生きていたら今頃76歳になっていたでしょう。

元気だったら、もっと色々なことがしたかった。

大人になったワタシを見て、祖母がなんて声をかけてくれるか、知りたい気持ちもありました。

けれども、その願いは叶うことはありません。

そしてあの日以来、祖母が会いに来てくれたことは一度もないんです。

ただワタシと祖母には、小さい頃から二人で約束していたことがありました。

「どんなことがあっても、おばあちゃんは納言ちゃんのことが大好きだから。離れ離れになった時には、お空に向かっていつもの言葉を言ってね。その言葉はちゃんと聞こえているから」そう言っていました。

だからワタシは、この時期になるとふと空に向かって、合言葉を話すんです。

「ばあちゃん、お空の上まで、宇宙の端っこまで届くくらい大好きだよ」と。

ナイーブな私に勇気をください

  1. TK1979 より:

    ハロウィンに···を読んで

     私も亡くなった父とたった一度だけ会ったことがあります。
     床について、ふと気がつけば父が隣に正座した姿で座っていました。
     私が気づくと父は
    『なにやってんねん、しっかりしょ』
    と叱咤激励するような口調で声をかけてきました。
     呆気にとられた私は返す言葉も思いつかず、成り行きを見守りました。次の瞬間に朝を迎えていました。
     私は亡くなった父と合った時のことを思い出すと、なんとなくゆっくりした時間(とき)と暖かで包まれるような感覚におちいります。
     どことなく懐かしいような、そんなことを思い出させて頂いたエッセイでした。私も納言さん同様に
    『大好きだよ』
    と叫ぶべきですね。
     ありがとうございます。

    • いつも読んでくださり、ありがとうございます!
      TK1979さんにも似たようなご経験があったことを知り、なんだかとても嬉しくもあり、切ない気持ちにもなりました。
      お父様の言葉は、力強さの中に優しさが溢れているような感じがしました。
      亡くなってからでは、話すことも触れることもできません。ただあの時の感覚だったり、温もりだったりは体が、心が覚えているんですよね。
      私自身がそんな気持ちにさせてもらったコメントです。
      素敵なエピソードを教えてくださり、ありがとうございました。

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