永遠の愛なんて

オリエンタル納言日常日記

キッチンの片隅で体操座りをしながらタバコを吸うワタシの目から、涙が溢れて止まらなかったんです。

彼はワタシのことを「愛していない」と分かっていたから。

寝息を立てながら布団で気持ちよさそうに眠る姿を見守り、「これが最後になるだろう」と悟りました。

もう、二度と会うことはないということも。

換気扇の音で思考がかき消されてしまいそうになるのを必死に保ちながら、いつもよりも長く、深く、深呼吸をするみたいに煙を体の隅々まで入れていたのです。

少しでも、この時間が長く続くことを心のどこかで願いながら・・・。

会えない日々が

彼と出会ったのはマッチングアプリでした。

ワタシよりも2、3個年下の彼の腕には、彫りかけのタトゥーが施されていたのです。

テレビ電話をする中で、チラッと見えるその線に魅了されるものがありました。

今までタトゥーが入っている人と出会ったことも関わったこともなかったから、なんだか悪いことをしているような気分になって、新たな世界に足を踏み入れた気分になって、妙にドキドキした覚えがあります。

そしてワタシは彼のどこか少年ぽさを感じさせる性格に徐々に惹かれていきました。

出会った時から遠距離だったから、すぐに会えるわけでもないし、すぐに出かけられるわけでもないけれど、テレビ電話をしていると彼との距離がものすごく近く感じて、彼も同じように感じてくれていることが嬉しくて、毎日のように話をしていました。

会えないからこそ、私たちなりの距離の縮め方をして。

4時間かけて会いにいく

やり取りを重ねていくうちに、徐々に会いたい気持ちが増していきました。

もっと彼と話をしたい、もっと彼と仲良くなりたい、そうワタシが思うのと同じように彼からも同じような気持ちが伝わってきました。

だから予定を決めて、初めて会うことにしました。

お互いにデートで着ようと思っている服の話をしたり、会ったら何をしたいかなんかも話した気がします。

お互いにそわそわしているようで、早く会いたい気持ちが溢れているようで、その時間だけでも幸せでした。

正式に付き合っているわけではなかったけれど、どこかで「きっと付き合うんだろうな」とワタシも彼も思っていました。

だから電話越しにお互いに必ず、「好き」という言葉を伝え合っていたんです。

そしてとうとうその日はやってきて、ワタシは4時間かけて彼の住む場所へと車で向かいました。

初めての夜

行く時間が遅かったこともあり、到着したのは夜の22:00を過ぎたあたりでした。

彼に言われた家の駐車場に車を停めると、彼がすでに外で待っていてくれて「やっと会えた」とぎゅっと抱きしめてくれたのです。

長い時間を埋めるように、寂しさを喜びで満たすように、外なのにも関わらずワタシも彼の腰に手を回し、同じように抱きしめ返しました。

心の中では(会いたかったよ。ずっとこの日を待っていたよ)そう思っていても口にすることはできなかったから、抱きしめる強さでその気持ちを表現することにしたんです。

ILDKの部屋はものが少なく、さっぱりとした雰囲気で黒を基調としている内装でした。

家に着いてすぐに、キッチがある通路で横並びになってタバコを吸い始めました。

彼の肩に頭を置いて、彼は時折ワタシの頭を撫でながら煙を天井に向かって吐いていました。

その煙の行方を見ながら、感じたことのない幸せを噛み締めて、ワタシも同じように煙を天井へと吐きました。

彼の部屋で

彼と会った時はあっという間に時間が過ぎて、次に日に彼は仕事があるということでワタシはそのまま家に残り、時間になったら帰ることになっていました。

彼が出ていって数時間後、玄関のドアが開く音がして、急いで向かうと彼が少しだけ荒い息遣いで帰ってきたのです。

「休憩の時間だけでも帰ってきちゃった。納言に会いたくて」そう言われたら、ますます好きな気持ちは溢れて、このままずっと二人でいたいとさえ思ってしまったのです。

彼が買ってきてくれたご飯を食べてから、また彼は家を出ていきました。

昨日会ったばかりなのに、テレビ電話だけでは伝わり切らなかった彼の魅力を直接感じ、ワタシも家を後にしました。

この幸せが、きっとこのままずっと続くと思いながら。

連絡の頻度が少なくなり始めて

初めて会った日から、彼とは変わらず連絡をとりテレビ電話をしました。

遠距離だから会えない時は本当に寂しいけれど、それでも彼と付き合っているという事実があるだけで寂しさよりも嬉しさの方が勝っていたんです。

けれども、季節が秋から冬へと移り変わり始めた頃、彼からの返信の頻度が明らかに減っていきました。

テレビ電話をする回数も、LINEの返信も明らかになくなっていきました。

その事実に目を背けるように、(きっと忙しいだけだから)と言い訳を考えて、彼からの返事をただひたすら待つ日が続いたのです。

そんなある日、彼から久しぶりに連絡が来たかと思えば「今度いつ、会いに来てくれる?」と連絡が入りました。

友人たちにその喜びを伝えると、「彼が来てくれるって選択肢はないの?」と現実的なことを言われてしまったけれども、その言葉を無視するように「一人暮らしの家に行った方が、いろいろ都合がいいから」としか言えませんでした。

もしかしたらどこかでワタシも、分かっていたのかもしれません。

けれどもその現実に触れてしまったら、この関係が終わる気がして触れられませんでした。

二度目の家とキッチンと

友人たちの忠告も聞かずに、ワタシはもう一度4時間の道のりをかけて彼の家へと向かいました。。

到着することを伝え、駐車場に着いても彼の姿はありませんでした。

そして家の中へ入ると、彼はワタシに何かをいうでもなくテレビを見ながら一人の時間を楽しんでいました。

「あのさ、タバコ吸ってもいい?」

「キッチンの方に灰皿あるから」

「ありがとう。一緒に吸う?」

「いや、俺はいいや」

「そっか」

冷たい床にへたり込み、持ってきたタバコに火をつけて天井に向かって煙を吐きました。彼の態度を見れば、ワタシじゃなくてもきっと察すると思います。

もう、ワタシに気持ちがなくなっていることも。

4時間かけて会いにきたワタシは、もしかするとバカなことをしているのかもしれない事実も。

さよならの代わりに

タバコを2本吸い終わり、彼の元へ戻るとワタシの隣に来て頭を撫でてくれました。

ほんの少しだけ安堵したワタシは、思わず彼に「好き?」と聞いてしまったのです。

すると彼は、撫でていた手を止めてワタシの方を向かずに、「好きかどうかはわからない。遠距離だし。納言にはもっといい人がいるかもね。でも、今いる間は好きでいると思うよ」と答えました。

言っている意味がわからなくて、混乱しているワタシに「当分俺忙しいから、会えないと思う。それに遠いから無理してこれから来なくていいよ。今日でとりあえず最後だと思って」と続けたのです。

その言葉を言い残し、彼は一人でお風呂に行ってしまいました。

言葉が脳内で何度も繰り返されながらワタシは呆然と、彼がいた場所をただ見つめることしかできませんでした。

あっけなく終わりを迎え

あれ以降、彼からの返事はますます遅くなって、ほとんど返ってこなくなりました。

そしてこの関係を終わりにしないといけないと悟り、ワタシは彼に「もう好きじゃなくなった?」とLINEを送りました。

するとすぐに返事が返ってきて、「納言には、もっといい人がいるよ。素敵な子だから、いい人と幸せになってね」と返事が来たのです。

その返事を最後に、彼から連絡が来ることはなくなってしまいました。

あの時からワタシは、幾度となく「いい人だから」という言葉を人が変わるたびに言われることとなります。

そしてその度に傷つき、恋の沼へと落ちていくことになります。

誰でもいいから愛してほしい。

誰でもいいから心の隙間を埋めてほしい。

そんな想いが溢れて止まらなかったから。

けれどもそんな恋は、ことごとくうまくいきませんでした。

彼と同じように「いい人だから」という言葉をタバコの煙のように吐かれ続けて・・・。

ナイーブな私に勇気をください

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