番外編 暴走族だった男 後編

オリエンタル納言日常日記

Withshow In 車内は、本人の自己満コンサートと化し、反対に私の心は(帰りたいコール)の嵐でした。自己満コンサートもようやく終わりを迎えたところで、「納言ちゃん、ここが俺の家だよ」の言葉を合図に目的地に到着しました。

外からでも分かるほど、薄暗くどんよりとした場所にマダラさんは住んでいました。階段を登り玄関に着いた瞬間「俺の家、汚いから」と言われました。

(汚いなら片付けとけよ!てかどんな環境で、料理作ったんだよ。怖すぎるよ、これから食べる唐揚げが怖いよぉぉぉぉぉ)と、もう一人の私がツッコミを入れている中、通された玄関には靴が散乱しており、床に物が転がり落ちていて、さらに奥へと進むと所々に散りばめられた髪の毛と、使いっぱなしにされていたヘアアイロンが無造作に置いてありました。

部屋の隅っこには一枚の布団が敷かれており、唯一その周辺だけが綺麗に整頓されていました。

もうお気づきかもしれませんが、この汚部屋でマダラさん特製のスペシャル唐揚げを食べるというミッションが、新たに追加されたのです。

唐揚げを待つ間

マダラさんは手を洗いに行った後、「最後の準備してくるわ!」と言って、台所の方に行ってしまいました。

唯一無事だった布団の上にちょこんと座りながら、床に落ちている何色かも分らない長い毛や、ホコリが溜まっている床を見て絶句するしかありませんでした。

とにかく汚いの一言につきました。

けれども料理が終われば、この汚部屋でマダラさん特製唐揚げを食べなくてはならない。

そう、私は腹を括る選択肢しか残されていませんでした。

(手はちゃんと洗っているのだろうか。食器はどうなっているのか。いや、それよりも油は新しいものを使ってくれているのだろうか)と考えていると、心の声がそっと私にこう言いました。

「あいつの唐揚げ、信用できないぞ」と。

心の声と自分が置かれている状況に必死に向き合いながら、ふと壁に目を向けました。

するとそこには大きな旗が飾ってあり、その旗には金の文字で戦国武将の名前が書かれていたのです。

さらに目線を下にやると、写真のようなものが飾られており、私はそこで全てを悟ったのです。

マダラさんと愉快すぎる仲間たちがこちらを睨み、服を見せつけながら立っている姿、そして背中に書かれた刺繍の文字には、旗と同じ戦国武将の名前が縫われている状況は、紛れもなく暴走族だという事実を・・・。

写真からでも伝わる夜露死苦(ヨロシク)という感じ、本気と書いてマジと読む的な雰囲気、まさに仲間を愛死天流(アイシテル)感じが出まくっていたのです。

私はとんでもないところに来てしまったのかもしれない、ライオンの檻の中に呑気に日向ぼっこに来てしまった呼非唾路(こひつじ)的なポジションになっていることに、気づいてしまったのです。

約束の唐揚げ

そうこうしている間に、「お待たせ〜!できたぞ!これめっちゃ美味しいから食べてみ?」とマダラさん特製唐揚げを差し出されました。

出てきた唐揚げは、想像していたものよりもずっと美味しそうだったので、謎の旗と写真、そして武将の名前が気になっていたけれど、とりあえずそのことには触れずに唐揚げを一口食べてみました。

「・・・、あれ?すごく美味しいよ!この唐揚げ。(ん?なんか、ホコリっぽい?いや、美味しいよな。うん、美味しい。これは美味しい)なんだろう、味がしっかりしていて、熱々で美味しいよ」

「そうっしょ!俺さぁ唐揚げ作んのめちゃ得意なんだよね。これでまずいって言ったやついないのよ」

「や、やっぱり〜!そうだよね。うん、美味しい。今まで食べたことのない味が、また良いっていうか」

「やっぱりそうだよなぁ。喜んでもらえてよかった」

「せっかくだから、マダラさんも一緒に食べようよ」

「いや、俺お腹いっぱいなんだよね。味見したからいいや」

「そうなんだぁ・・・。全部食べきれないから、食べられる分だけいただくね!」

食べ始めの一口は本当に美味しくて、これなら沢山食べれそう!と思ったのですが、だんだん喉の奥に感じる違和感と拭いきれないホコリっぽさを感じるようになりました。

しかし大量に作られた唐揚げをほとんど食べないわけにもいかず、なんとか必死で食べられる量まで食べ続けました。

マダラさんは、嬉しいのか何なのかよく分らない顔をしながら、私が食べている姿を見つめていました。

マダラさんの過去

食べ終わって一息ついたところで、ずっと気になっていたことを勇気をだして聞くことにしました。

旗の正体と武将の意味、そして写真に写る仲間たちのことを。

これを聞かない限り私は帰れない、そう思ったのです。そして(頼むから暴走族じゃありませんように)と無駄な願いも込めて。

「あのさ、マダラさん!この旗に書いてある武将は何?」

「あぁ、これ?俺が族に入ってた時の旗だよ。俺が好きな武将から名前とってるんだわ」

「あっ!!そういうことだったんだね。(おいおいおいおいおいおい、やっぱり暴走族じゃない、夜露死苦界隈の人じゃない。とんでもない人紹介されてたぁ。私大丈夫か?これはどうなるんだ・・・。もう分らない、誰か教えてぇぇぇぇぇ)」と考えているうちに、マダラさんは自らの過去を話し始めました。

自分たちで立ち上げた暴走族に所属していたこと。

辞めるときには特にケジメとかもなく普通に抜けて、その後はツーリングを一人で楽しんでいたこと。

写真は当時の仲間と撮ったものだということ。

そしてマダラさんは、少し下を向いてボソッと俺はずっと一人だったから。家族もいないようなものだし、この部屋だってもうずっと一人で住んでる。家族代わりだったのかもな、あいつらは」と。

きっと寂しさを埋めるために、人生という道を迷い続けていたのかもしれません。

唐揚げの味はちょっと変だったけれど、過去に暴走族に入っていたからといって、悪い人じゃないことを知ったのです。

私はマダラさん自身の心に少しだけ触れられた、そんな気がしました。

謎の跡の正体

辛気臭いムードが消えたところで、タイミングを見計らってもう一つ気になっていた『謎の跡』の正体も、思い切って聞いてみることにしました。

「あのさ、腕についてる跡ってどうしたの?」

「これ?根性焼きを数珠つなぎにしてる。数珠つけんのめんどくせぇーし、度胸試し的な感じで、仲間と一緒に焼いたんだよ」

(あれ!?さっき、心の闇の部分に触れたはずだよな・・・。数珠つなぎの根性焼きってナニ!?数珠つけた方が絶対早いよね。間違いなく早いよね。もう頼むからカラダ、大事にしよ)と再び心の声が勝手に喋り出しながらも、見ているだけで痛そうな根性焼きの跡と綺麗に間隔を空けていた理由を知り、マダラさんのことが、また分からなくなりました。

体を痛め付けることにビビっていないマダラさんでしたが、刺青は一切ありませんでした。それもマダラさんによると「刺青は別に興味湧かないんだよね。まぁ、彫ろうとした事もあったけど、なんかめんどくせぇ〜なって」

ふと私は思ったのです。

本当にこの人はめんどくさかったのだろうか、もしかしたらビビって行かなかったんじゃないだろうかと。どこまでもスイスイ泳ぎ続ける目を見つめ、それ以上言及することはしませんでした。

まぁ結果的にマダラさんの正体と跡の謎が解けたこと、そして唐揚げを食べるというミッションも成功したことで、ようやく充実感を味わえていました。

喉の違和感と蕁麻疹は突然に

過去の話を聞いている時から私の喉の奥は、違和感に支配され始めていました。

痛いような痒いような、熱いような苦しいような。「この感覚は前にも経験したことがある」と徐々に焦り出していたのですが、マダラさんに言えるはずもなく、唾を飲み込む勢いを強めながら喉に刺激を与え、痒みと違和感に耐えていました。

ふと腕を見ると、ポツポツ赤い斑点も所々に出てきていました。

私は確信したのです。

全身にアレルギー反応が出ていることを。

元々肌が弱く、食物アレルギーも持っていました。この唐揚げにアレルギー物質が入っているとは思えないのですが、もしかすると、油が古くて体に合わなかったのかもしれません。

それとも、汚すぎる部屋にアレルギー症状が出ていたのかもしれません。

ホコリっぽさがいけなかったのか、もしくは食べた唐揚げに原因があったのか・・・。

少しずつ体に変化が起き始めてから、みるみる体調が悪化していきました。このままマダラさんの家にいるわけにはいかないそう思い、仲を深める前に帰宅することを決めました。

マダラさんに対して、あれやこれやと疑問や不満や不信感を抱きつつも、私はちゃっかり彼の膝の上にのるという流れなんかも出来ていて、手を繋いだりスキンシップをとったり、もう少しでキスをする雰囲気さえも出ていました。

しかし謎の体調不良とアレルギー反応のせいで、私の青いと幸せが遠のいてしまいました。

その後

全身の痒みが増す中、平常心を装いながら家の近くまで送ってもらいました。家についた瞬間に緊張の糸は切れ、そのままリビングで眠ってしまったのです。

眠っている途中でまた違和感を感じ、起きたときには身体中に蕁麻疹と微熱も出ていました。そのまま病院に行けばよかったのですが、気力もなく再び眠ってしまい、気がつけば朝になっていました。

起きてみると昨日まであった喉の違和感も、全身の痒みも消え、すっかり体調は良くなっていたのです。病院には行ってなかったので、本当の理由はいまだに分かっていません。

そして悲しいことに、私が家に帰った時点でマダラさんとの連絡は途絶えてしまいました。お礼の連絡を入れても返信が返ってくることはなく、マダラさんと会っていたことは、夢だったのかと思うほど、あっけなく終わってしまいました。

この出来事以降、私は唐揚げ恐怖症になってしまい、一時期は大好物だった唐揚げも一切食べませんでした。

ちなみにですが、後日マダラさんを紹介してくれた友人にこの話をしたら、友人さえも暴走族だったことを知らず、最近仲良くなったばかりだから、会ったのも3回しかないと言われたことが、私的には一番衝撃の事実でした。

(どうしてそんな人を紹介したんだよ!)と言ってやりたかったけれど、正直もう忘れたかったので、何も言いませんでした。

最後に

この唐揚げ事件以降、本当に信用できる人の家でしかご飯は食べないことに決めています。

人は見かけによらないという言葉もあるけれど、やっぱり人となりは見た目や行動に現れているのだと痛感したのも事実です。彼が今何をしているのか全くわからないし、正直顔もほとんど覚えていませんが、あの唐揚げの味だけは鮮明に覚えています。

皆さんも食べ物を食べる際には、その人自身を信頼できるのか、そして身の回りが整理整頓されているのかを、しっかりと見極めてほしいと思います。

〜完〜

 

 

ナイーブな私に勇気をください

  1. モト より:

    今回は中々ソフトなお話しのような気がしました笑
    悪い人ではないんでしょうけど、おそらく納言さんの本能が蕁麻疹となって出てきたのではないでしょうかね_:(´ཀ`」 ∠):
    付き合ってたらお揃いの根性焼きをつけられてたかも笑
    今回も楽しく読ませて頂きました!

    • オリエンタル納言 オリエンタル納言 より:

      モトさん!いつも読んでくださりありがとうございます。悪い人ではきっとないとは思うのですが、もしも関係が深まっていたら、お揃いの根性焼きは回避できなかったと思います。笑
      一つのネタとしては、体験できてよかったと思う出来事でした

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