夫と出会うまでの私の人生は、本当に悲惨なものでした。
常に誰かを羨み、時には憧れが嫉妬に変わり、そして最後には「どうせ私なんて・・・」と下を向くことしかできませんでした。
いや、もしかすると、負の感情を抱きながら生きる事で、自分の気持ちをなんとか保っていたのかもしれません。
今までにも何度も書いてきたのですが、私には高校生まで心から友だちと呼べる人がいませんでした。そして常に「いつかは、離れていく存在」として深い仲になることを、私自身が避けていたのかもしれません。
信じた先に裏切られた過去があったから。
それは、幼い頃から学生に至るまでずっと心の中のシコリとして、残り続けていました。
人はいつかは裏切るものだから、どれだけ相手のことを想い大切にしようとしても、一瞬でどこかへ飛んでいってしまう、まるで風船のような存在だと。
だから期待することも、信じることもやめました。
そのうち、私自身が心を開かなくなってしまったから、余計に信頼関係を築くことも、お互いに歩み寄ることも出来なくなってしまったのかもしれません。
しかし、短大に行くようになり、心の底から友人と思える人や、社会人になってからも気を許すことのできる人たちに、出会うことができました。
その人たちは、今でも私にとって唯一心から信頼できる友人たちなのです。
そして私の不幸と幸福の両方を見てきた人たちでもあります。
病気だった私と出会って
夫との出会いは、マッチングアプリでした。
そして出会った頃の私は、人生の中で1番心が荒んでおり、仕事もプライベートも何もかもがうまくいかなかった時期でもありました。
ふっくらとした顔は痩せこけてしまい、アバラが浮き出た体と、膨らんだお腹は栄養失調そのものの体型をしていました。
久しぶりに会った友人たちは、顔面蒼白な私をみて「どうしてこんなことになったの!!」と悲しそうな表情を浮かべて、ご飯に連れて行ってくれたり、深夜まで電話に付き合ってくれることもありました。
しかし、ご飯の量も一人前を食べ切ることはできず、さらには食べたら出てしまうこともあり、外食に行くこともあまり出来ませんでした。
みるみる変わっていく自分の姿に嫌悪感を抱くこともあれば、どこかで(もっと痩せなきゃ・・・。もっと細くならなきゃ)と思い続け、あえて食事を取らないようにしていたこともあり、周りから「痩せたね」とか「細すぎるんじゃない?」と言われるたびに、(あぁ、痩せているんだな。よかった)と、幸福感を味わってしまっていたのです。
今考えると、その思考自体が病的だったと思います。
まさに1番病的で、病んでいた時期に出会ったのが夫だったのです。
夫は、私の健康だった頃を知りません。
ふっくらとした姿も、ご飯を一人前食べているところも、いまだに知りません。
そんな私を、夫は偏見なく受け入れてくれました。
そして初めて出会った約束の駅前で夫を見た時、私は(あっ、この人と結婚するんだな)と感じたのです。
初めてデートをした日、夫はとても緊張をしていました。それは私が見ても明らかに、気を遣っているようで、私のことも少しだけ怖いと感じているような、近寄りがたいと思っていることも手に取るように分かりました。
反対に私は、「きっとこの人と人生を共にするんだ」と思っていたから、最初の印象はそれぞれ全く別のことを考えていたのです。
けれども話していく中で、少しずつ打ち解けていき、交際に発展することとなりました。
心の扉を開いたとき
私は小さい頃から、クローゼットの中に入るという癖がありました。
悲しくて涙が出てしまいそうな時、怒られた時、逃げ場所はいつもクローゼットの中でした。それが唯一、自分自身でいられる場所であり、ありのままの姿に戻れる場所でもありました。
涙を流しているところを見られたくなくて、弱い自分をさらけ出したくなくて、常に強くいなければいけないと思い、誰にも見つからない場所を選んでいたのです。
しかし、大人になると自然とクローゼットの中に入ることもなくなり、泣きたい時には車の中で泣いたり、誰もいないような場所を探して気持ちを落ち着かせることもありました。
しかし、大きな喧嘩をした時、私は初めて人前でクローゼットの中に入ってしまいました。
まるで子どもに戻ったみたいに、泣きながら・・・。
今まで夫と喧嘩をしたことは、何度もありました。けれども、私が泣いたり、怒ったりすることはなく、淡々と正論だけをぶつけていくということを繰り返していました。
それを夫は、裁判官モードと名前をつけて呼んでいました。
心を全て閉ざして、まるで機械のように淡々と話す姿に、ハートがまるでないと言っていたからです。
けれどもその日だけは、なぜかクローゼットの中に入ったのです。
すると「ねえ、納言ちゃん・・・。僕も入っていい?」と聞かれ、当然私は無視をしていました。
「あのね、入るね?」そう言ってきた彼は、静かに隣に座り私の肩を抱きながら「だいじょうぶ、だいじょうぶ」と言い続けていました。
その言葉に、気がつけば涙が溢れて止まらなくなっていました。
私の気が済むまでひたすらクローゼットの中に入り、寄り添ってくれました。当時の私は、仕事自体がうまくいかずに、心も体もボロボロになっていました。
子どもたちのために仕事をしたいのに、全く別の人間関係や大人の汚さを見させられ、時には理不尽に怒られたり、無視をされたり、嫌がらせをされることもありました。
それでも子どもたちの前では、笑顔の先生を演じなければならない。それが何より辛かったのです。
夫との喧嘩はただのきっかけでしかない。
何よりも、自分の心が限界だと言っていることに、彼はすでに気づいてくれていたのかもしれません。
クローゼットから出てしばらく経った後、夫はゆっくり話し始めました。
「納言ちゃんは僕に怒っているというよりも、今までにされたことや、今ある状況全てにきっと怒っているんだろうね。どうしていいか分からなくて、助けてもらいたくても方法がわからない、そんな感じがするんだ。でもね、クローゼットに入ったとき、僕は君の心の中が初めて見えた気がしたんだ。今まで開かなかった大きな扉が、ゆっくり開いていく感覚を、僕は感じたよ。ありがとう、本当の君を見せてくれて。辛かったら言っていいんだよ?無理なんてしないでいいから。これだけは覚えておいて。僕はずっと君の味方だからね」そう言って優しく抱きしめてくれました。
あの優しさは、今でも忘れません。
そしてしばらくして、私は仕事を休職することになり、それに伴い同棲を始め、9月に晴れて夫婦となりました。
私が出会った時に感じた「結婚する」という直感は、間違っていなかったのです。
彼と出会い、見え方は変わる
私の人生が大きく変わったのは、紛れもなく夫のおかげだと思っています。
元彼たちにはなかった、心の温かさを感じたのです。
それはきっと、夫自身も同じように痛みを味わった経験が何度もあったからだと思います。辛いことも悲しいことも、人には見せず1人で戦ってきたからこそ、私の心の傷を見たときに、同じように胸を痛めてくれたのかもしれません。
そして夫婦になってから、私は仕事を辞めて夢を追いかけることを決めました。
その時も「今までの人生は辛いことばかりだったと思う。けどね、これからだよ!もっと面白いことになっていくのは。君には沢山の才能があるから。今までは才能の芽に肥料をあげたり、水を撒いたりしながら、芽が出るのを待っていたんだ。これからなんだ。今までの経験がきっと活きてくるはずだから。僕は君のそばで言い続けるよ。『きっと面白いことになるから、やり続けて』って」と。
そして今、夫の言った通り本当に面白くなり始めています。
新しい世界を見始めて、知らない人たちに会って、視野が広がっていく。夫はきっとそのことを言い続けていたのかもしれません。
今までの人生で心から私を見て、愛してくれる人はいませんでした。
付き合ってきた人たちの飾りのような存在として、飽きられたら可燃ゴミのように簡単にポイっと捨てられる。
それだけの存在でした。
何より私の心の中を知ろうとする人も、いませんでした。
だから隠し続けていたんだと思います。
表の顔で笑って、裏の顔で泣いていたことも。
夢を託され、共に向かう
夫にも夢がありました。
歌手になる夢が・・・。けれども、才能をお金の道具に使われたり、酷い扱いを受けたりして、結局は諦めてしまいました。
だから夫はよく言うんです。
「僕は夢を持っていたけど、続ける才能がなかった。だから、今度は君の夢を応援させてほしい。辞めたくなった時は、『きっと面白いことになるから。やり続けて!』と言い続けるよ。何より1人で夢を追いかけることは難しいけれど、2人でチャレンジするならきっと上手くいくから」そう言い続けてくれています。
人生何が起こるか分かりませんが、私のように地獄の底まで落ちていた人間でも、手を差し伸べてくれる人がいることを、夫と出会ってから知りました。
そして、夫が言い続けてくれるおかげで、私は今こうして新しい人との関わりを心から楽しめるようになっています。
きっと1人では、立ち直ることも前を向こうとすることもしませんでした。ましてや、夢を持つことなんて全く予想もしていませんでした。
ようやくスタートした2人の夢は、沢山の人たちの応援や支えによって一歩ずつ確実に叶っていくと思います。
そのためにも、諦めずに才能の芽に水をあげ続けていきたいと思います。
そしていつか同じ気持ちの人が現れた時、私は夫の言葉を借りてこう伝えるでしょう。
「あなたには、沢山の可能性と才能がある。だから、好きなことを見つけた時、夢ができた時には、諦めずにやり続けてほしい。そして、あなたの夢を目標を応援している人がいることも、忘れないでほしい」と伝えたいと思います。
ナイーブな私に勇気をください