忘れられない花火大会

オリエンタル納言日常日記

人生2度目のコロナにかかり、私たち夫婦は夏を謳歌する前にベッドの上でひたすら療養生活を送るはめになりました。

1回目よりはマシだったけれど、それでも倦怠感だったり、頭痛だったり、咳地獄に苦しめられながら、治すことに全力を尽くしていました。

毎日生姜入りの何かを食べ、ひたすら水分を摂る。

努力の甲斐もあって、何とか完全復活とまではいかないけれども、体調も落ち着いてきました。

免疫って大事だなとヒシヒシ感じることとなったのです。

日頃からの生活習慣って大切だな、なんて考えながら二人で「これからは、さらにうがいと手洗いを真剣に取り組んでいきましょう」とガシッと握手を交わしながら、アイス片手に復活を盛大に祝い合ったのです。

さてそんな病みあがりを経て、8月5日にましゅぴの実家の三重で行われた石取り祭りに出かけたのですが、数年ぶりの祭り、そして久しぶりに夏らしいことを経験したことで、「日本の夏ってこんなに楽しかったっけ」と心を躍らせながら、屋台で色々なものを食べました。

なんといっても、屋台のベビーカステラを食べた時には、昔の記憶が蘇り、懐かしさと夏気分を全身で味わうことができました。

そんな中、祭りには家族連れやカップル、中高生たちが友だちとワイワイしながら屋台のものを食べたり、浴衣を着て、慣れない下駄をカランコロンと鳴らしながら歩いていたわけです。

微笑ましく眺めていると、ふとワタシは思い出しました。

数年前の忘れられない花火大会を。

友人カップルとワタシと、当時付き合っていた彼氏と行った花火大会の出来事を。

マッチングアプリで出会ったやんちゃな彼

もう遡ること何年前になるかも忘れてしまったけれど、当時付き合っていた人もマッチングアプリで出会った人でした。

雰囲気も発言もどこかやんちゃで、若くて根暗なワタシにはそんな彼が眩しく見えてしまったんですよね。

「あぁ、そんなやんちゃなことを!?なんだか社会に縛られない感じが素敵だわ」なんて思っていたんです。笑

過去の武勇伝を声高らかに話す姿にときめいて、喧嘩のエピソードに驚きながらもワクワクして聞いてしまう。生きてきた世界がまるで違うところも、惹かれてしまった一つでした。

しかしそんな彼だったから、中々勝手な人だったし、デートはいつもカラオケか家だったし、少し離れた距離に住んでいたけれど、毎回ワタシが会いに行っていたしで、今思えば都合のいい奴として全く自分の状況が見えていませんでした。

「会いたい」と言われれば、すっ飛んで会いに行きました。

「今日暇?」と聞かれれば、無理にでも予定を空けていました。

そんなことを繰り返してしまったもんだから、いつしかワタシの存在が当たり前になってしまったし、完全にダメンズ製造機と化してしまったのでしょう。

そんな生活が数ヶ月続いても、ワタシはちゃんと恋愛をしているつもりだったし、好きだったんです。

そして彼氏ができたら、一度でいいから叶えたい夢がありました。

それが浴衣を着て花火を見に行くことだったのです。

しかし、ヤンチャな彼がそれを許してくれるかも分からない。

こんなことを言ってしまったら、面倒臭い奴だと思われないかと本当に色々なことを考えながら、話を切り出す機会をうかがっていました。

「あのさ、今度ワタシの地元で大きな花火大会があるんだけど、一緒に行かない?・・・」

「花火大会?え〜、人多くね?」

「多いけどさ、でも一緒に行ってみたいんだよね。どうかな?」

「う〜ん、まぁいいよ」

「えっ!本当に!?いいの?えっ!嬉しい!!」

こうして勇気を振り絞り、彼を花火大会に誘うことに成功したのです。

そして花火大会には、ワタシのペンネームの名付け親でもある友人カップルとダブルデートとして行くことが決まりました。

もうこの時が1番テンションが上がっていましたね。

彼氏といく花火大会ってどんなものなのか、浴衣を着てあったらどんな反応をされるのか。「心が躍るってこういうことなのね!」なんてアニメのヒロインさながらに、風はそよぎ、体は騒ぎだし、そして宙を舞いたくなる気分。

まさにワタシはこの瞬間から花火大会まで、人生のヒロインのつもりでいました。

当日のあの日までは・・・。

花火大会当日

花火大会当日、夕方3時から着付けをお願いしていたので美容院に向かい、着せてくれた人に「今日は誰と行くの?」と聞かれたので、「彼氏と初めて行くんです」なんて嬉しそうに答えていました。

ニヤニヤする顔をしっかりキャッチしたお店の人も、「まぁそうなの?浴衣を着て行くなんて素敵ね。きっと彼氏さん喜んでくれるわね」と言ってくれる。

もはやこの空間は、幸せと微笑みが溢れちぎっているわけで、花火大会への期待も、彼がどんな反応を見せるのかへの興奮も入り混じっていました。

そして最後に帯を締めてもらい、トンっとされた時「全力で楽しんできてね」と言われたら、もうこれは幸せな未来しかない。もうそんなフラグがビンビンに立ちまくっていたんです。

美容院を出た後、車で来ていたワタシは集合場所まで浴衣が崩れないように、全ての神経を尖らせて目的地まで急いで向かいました。

集合場所に着くと友人たちはもう待っており、ワタシの浴衣姿を見て「とっても似合ってるね」と褒めてくれました。

照れくさいやら嬉しいやらで、「あ、ありがとう」とだけ伝え、最寄りの電車に乗り、彼が待つ現地へと向かったのです。

彼の反応は?

車内は特にいつも通りの空気が流れながらも、色々な話をしながら無事に目的地へと到着しました。

少し早めに着いた事もあり、時間になるまでの友人たちと待っていました。

彼が来るまでの間、どんな言葉をかけてくれるのか、(びっくりするかな。もしかしたら珍しく可愛いって言ってくれるかも)と期待値はさらに上がっていく。

すると、前の方から少し気だるそうに歩いてくる見覚えのある人がやってきたのを見た瞬間、なぜだか妙に緊張してドキドキが止まりませんでした。

何度も友人に「髪型大丈夫だよね?浴衣緩んでないよね?」と確認をしながら、熱い視線を送り待っていました。

しかし、彼の第一声は「ここ、遠いな」でした。

そして友人たちには「あっ、どうも」と軽く挨拶をし、ワタシの浴衣姿をちらっと見て一言、「浴衣で来たんだ。和顔だもんな」とフッと笑われたのです。

想定外すぎる発言に「えっ!?」としか声が出ず、「あっ、似合ってるんじゃね?」と付け加えられた言葉には、なんの説得力も喜びも感じませんでした。

期待値が高すぎたせいもあって、(せっかく気合い入れたのに・・・)と悲しいやら寂しいやらいろんな感情が入り混じったまま、花火大会の会場へ向かったのです。

モヤモヤが止まらない

会場についてからも、人混みが鬱陶しいだの、暑いだの、さっさと帰りたいだの愚痴をひたすら吐いている彼と対照的に、友人たちは空に打ち上がる花火を見ながら「綺麗だね」と肩を寄せ合い、幸せそうに眺めていました。

対照的な姿を見た時、ワタシはなんとも言えない気持ちになり、そして大きな孤独を感じました。

何より、自分のやりたいことには付き合わせるのに、ワタシの希望はこんなにも嫌な言葉と共に吐かれていくかと思うと、悲しくてたまりませんでした。

大きく打ち上がる花火を眺めながら、こんな寂しい気持ちになったのは、あの時が最初で最後だったと思います。

とても悲しかった。

とても苦しかった。

ぎゅっと締められた浴衣の帯のように、ワタシの心が今この場で解けてしまわないように、そして涙がこぼれないように、ギュッと唇を噛み締めながら耐えることに精一杯でした。

そんな気持ちをよそに、ひたすら文句を言い続ける彼に、急速に冷め始めていたし、何よりワタシは人を選ぶセンスがこうもないのかと、だんだん苛立ちの方が募っていきました。

気持ちも知らずに、空高く鮮やかな色を出しながら打ち上がる花火は、忘れられない記憶として心の中に残されてしまったのです。

車内で始まる武勇伝

帰りは彼の家に泊まることが決まっていたので、友人の彼が運転する車に乗り、ワタシの車が置いてある場所まで送ってもらうことになっていました。

花火大会の間、彼はビールを飲んでいた事もあり、沈黙の車内で急に口を開き始めたのです。

「いやぁ、俺思い出すなぁ。昔さ喧嘩ふっかけられたことがあってさ、ツレと一緒にボコボコにしたわけ。そしたら、最初メンチ切ってたくせに『すみません』とか言うから、ウルセェ!!つってボコってやったわ。夏になるとさ、喧嘩したくなるのよ。頭おかしい奴多いから、面白くて、最高に喧嘩しがいがあるのよ。まぁ、負けたことないけどね。笑」

お分かりいただけたでしょうか。

あの夏のセンチメンタルだった気持ちを全てぶっ壊してくれたクラッシャーは、ものの見事にクソダサ発言を、全く仲良くもなっていない友だちカップルもいる中で、堂々と話し始めたのです。

隣に座っていたワタシは(こいつ、なんでこんな話してんの。もういいんだけど、そういうの。めちゃくちゃダサいし、恥ずかしいし、この空気どうすんの)と思い、友人も同じ気持ちだったらしく、ミラー越しにワタシの顔を確認しながら、なんとも言えない表情を浮かべていました。

そして運転をしてくれた友人の彼は、運転に全集中することを選び、一言も喋らずに、ひたすら前を向いて運転し続けていました。

地獄の空気もよそに、どんどん出るわ出るわの武勇伝。

もうそれは止まらないやめられない、のオンパレード。

思い出すのも恥ずかしいくらい、数十分の帰り道、車内はずっとこいつの武勇伝が続き、もはや相槌するのはワタシだけという状況にも関わらず、本当に楽しそうに過去の栄光を語り続けていました。

喧嘩の話を何往復もして、今までしてきた悪い話もついでに盛り込んで、「俺はやんちゃなんだぜ!!!!!」と発表をしていたので、本人ご満悦のまま目的地到着まで武勇伝は続けられました。

目的地到着後、最後に「今日はあざす」と軽く会釈をして帰ろうとした彼に殺意が湧いたのは、言うまでもありません。

後日談

彼の家に帰る道中も、「俺の話やばかったって思ってたよな。絶対」と嬉しそうに語る彼に、このまま下ろしてやりたいと思う気持ちをグッと堪えて、車を運転したのは、今となってはいい思い出です。

ちなみに、友人はあの日の出来事を今でも馬鹿にしているし、一生忘れられないネタとして語り継いでいます。

そしてあの事件以降、当分の間ワタシは花火に行くことも浴衣を着ることもやめてしまいました。

なんだか嫌な思い出が蘇るし、気分も悪いし、高らかに話す顔も浮かんでくるしで、いい思い出にならなかったので。笑

ちなみに彼とは、その後すぐに別の理由で別れてしまうのですが、その後も中々縁が切れずに、セフレ状態にされていたり、いつの間にか都合よく使われたりと散々振り回されることになりました。

しかし、その話はまた別の機会にでも書けたらと思います。

あの武勇伝事件以来、彼氏と名の付く人と祭りになんて出かける事はありませんでした。

数年の時を経て、結婚をして、浴衣ではないけれど夫と共に祭りに出かけられたことが、数年の悪しき記憶を浄化するいい機会になったのかもしれません。

今彼がどこで何をしているのかは全く分かりませんが、せめて今隣にいる人に武勇伝を語っていることがないようにだけは、祈りたいと思います。

同じ被害者が出ないように・・・。

いつまでも過去を見るな!今を見つめてしっかり生きろよ!!ってね。

ナイーブな私に勇気をください

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